弁護士実務における簿記会計の意義
修習生の頃、簿記の勉強をしました。日商2級まで取りました。3級でも①個々の取引の仕訳②総勘定元帳の整理③期末の修正④貸借対照表と損益計算書の作成まで行います。これらの作業を実際に行い、私は各勘定科目の背後に貨幣が存在していること・集計過程で貨幣は相殺処理されること・各勘定科目は連動していること等を理解しました。
昔、私は資産を何か実体がある概念と考えていました。しかし簿記の勉強をして「資産とは費用となり得るもの・収益を上げ得るもの」と認識を改めました。商法が目に見えるもの重視の指針にもとづいて規定されている(繰延資産等に懐疑的)のに対し会計的感覚では将来の収益力という目に見えないもの(のれん)こそ資産だと認識できました。税法的感覚との違いも多少判るようになり租税特別措置法による企業優遇の意味も少し理解できるようになりました。全ての企業活動は,最終的には会計学的「評価」を受けなければならないこと・評価基準の設定の仕方で会計情報の表し方が異なってくることが実感されるようになりました。学生の頃は戦後日本の経済成長の成果がどこに蓄積されていたのか判らなかったのですが、簿記を勉強して、その多くが不動産や株式の含み益として蓄積されていたこと、バブル経済とその破裂は蓄積された利益の蕩尽だったこと、アメリカが押しつけた時価主義会計がそのダメ押しであったことを実感しました。簿記会計の勉強は実務の大いなる手助けになりました。倒産事件において会計学的感覚は不可欠でした。家事事件における資産評価でも効用を発揮してくれました。若い頃の勉強が現在の職務に大なる利益を与えてくれています。こういった勉強による(目に見えない)将来の利益こそが「資産」なのでしょうね。