弁護士の速度・依頼者の重力
大塚博司「重力とはなにか」(幻冬舎新書)に以下の記述があります。
GPS衛星には3万年に1秒程度しか狂わない原子時計が搭載されています。しかし、どんなに正確な時計でも相対論効果から逃れることは出来ません。(略)まず、特殊相対論によれば人工衛星は動いているので地上から見ると時間がゆっくり進みます。光速に比べれば人工衛星の飛行速度は遅いので、わずかな差ですが、人工衛星に搭載された時計は1日に7マイクロ秒、地上の時計よりも遅れるのです。一方、一般相対論によれば重力が強いほど時間はゆっくり進みます。(略)逆に重力が強いところから重力が弱いところを観察すると時間が進んで見えます。ですから、地球の表面から見ると、地球からの重力が弱い人工衛星に搭載された時計は進んで見えるのです。こちらは1日に46マイクロ秒。そこから特殊相対論効果で生じる人工衛星の遅れを引くと1日39マイクロ秒だけ人工衛星の時計は進んでしまうのです。マイクロ秒の誤差なんてたいしたことはないと思われるかもしれませんが、この時間差を放置するとGPSはまったく使い物になりません。距離の誤差は「時間の誤差×光速」に等しいので39マイクロ秒の誤差でも距離の誤差は12キロメートルにもなってしまいます。
これを弁護士と依頼者の関係にあてはめて定式化を試みます。弁護士は依頼者に比べ激しく動いているので時間がゆっくり進みます(依頼者時計より少し時間が遅れる)。他方、依頼者から見ると重力が弱い(身軽な)弁護士の時計は依頼者の時計より時間が少し進んで見えます。この差異を放置すると両者の意思疎通を図ることが出来ません。実務で使い物にならないのです。弁護士は自分の「速度」と依頼者の「重力」との関係性を意識しなければなりません。