専門性と知識範囲
世間の人は法律の専門家である弁護士は法律について「何でも知っている」と誤解しています。確かに弁護士は司法試験に合格し司法修習も経ています。こういう誤解を受けるのも故無きことではありません。しかし、かかる見方は単なる幻想に過ぎません。弁護士は日常的に扱っている分野に関してはそれなりの知識と経験を有しています。しかし、そうでない法分野に関してはほとんど何も知らないと私は感じます(自分も含めての話です)。
医者の場合はどうでしょうか。次の記述があります(半田宏「悪い医者」データハウス)。
医者だって専門が進めば進むほど知識の範囲というのが狭く限られてくるもんなんですよ。あるいは卒業したての医者にね聞きかじった知識で聞いてくる人。シロウトが聞きかじった知識で聞いてくるのをある程度納得させてあげるのは結構話し上手じゃなくちゃいけないわけですよ。ところが卒業したての医者がそんなうまい話法を身につけているとは思えない。だから彼らは嫌がりますね。新米医者の修業とも言えますが。だんだんベテランになってくると、医者であっても、訊ねられたことに対して知らないものははっきりと「知りません」と言える勇気が必要になってきますね。だいたい5年から10年はかかりますけど。
登録したての弁護士は相談者や依頼者の方に対し「知りません」という言葉を使う勇気がなかなか出ません。私の経験でも上記半田氏の記述のとおり、はっきり「知りません」と言えるようになるまで5年から10年はかかりました。「専門が進めば進むほど知識の範囲というのが狭く限られてくる」というのは弁護士業界でも同じことなのです。昔、弁護士のあり方として「少しのことに関して全部を知っている・全部のことに関して少しは知っている」のが理想だという話を聞いたことがあります。「全部のことに関して全部を知っている」というのは不可能なことです。