実践知と法的議論
私は実践知と法的議論の関係性を卒論のテーマとしました。それは「実践世界で生成している規範が法的議論の根底にある」と主張するものでした(学者23)。司法試験受験生だったときに社会学的知識と直感でまとめたものです。それから約25年。法的な意思決定は実践世界で生成している知にもとづいて直感的になされている・が法律家はこれに法的構成を与えることにより意思決定が論理必然的に導かれたように(裏返しに)表現するという印象をますます強くしています(5者15)。
松浦好治教授は「法と比喩」(弘文堂)で次のように述べます。
比喩・類推・擬制などはかねてから法学基礎論の重要なテーマとして研究され優れた成果が既に多く公表されている。しかし従来これらの研究は比喩その他を法理論や法制度が「正常に機能できなくなった場合」に例外的に登場するものとして位置づけ、その限度でそれらの機能を論じてきた。(略)しかし本書は比喩・類推・擬制などは法的世界で例外的に見られる病理現象ではなく、正常な生理現象であることを論証しようとする試みである。さらに踏み込んで言えば比喩・類推・擬制などは法という人間の知的営みを根本的に規定し「法」の観念に具体性を付与するだけでなく、法の解釈創造に関する膨大で文字化が困難な知識を整理・統合する要として機能し、加えて法的判断の正当化・法的思考の進むべき方向・「正義」へのインスピレーションの保管庫となっているという主張を展開しようとするものである。
松浦教授が言う「従来の研究」とは法的議論を『要件効果型の硬直的規範』と『マニュアル化された事実認定技術』に矮小化し、その枠組みに入らない例外的事象に施される邪道として実践知を位置づける考え方です。私はかような狭い法の見方に(松浦教授とともに)異議を申し立てたいと思っています。そのための「各論と」して取り纏めているのがこのコラムなのです。