実務法曹の固有の守備範囲
田中成明先生は「法的思考とはどのようなものか」(有斐閣)で述べます。
法的思考の本質は、法律学の語源である”法の賢慮”(juris prudedentia)が象徴的に示しているように理論知ではなく実践知にあり、法に関する単なる知識(knowledge)ではなく、それを正義の実現のために用いる知恵(wisdom)にみられる。法的思考の固有の守備範囲はもともと時代の先端に立って鮮明な旗印を掲げて華々しく社会をリードすることではなく社会的摩擦の調整や紛争の解決など事後処理的ないし予防的な地味な社会的活動にあるとみるべきであり、その社会的役割を過大評価すべきではない。とはいえ、このような地味な役割が適正に果たされていることは政治社会が全体として公正かつ実効的に作動するために不可欠である。むしろ現代のような時代であるからこそ、法的思考が古代ローマ法以来の長い歴史の中で磨き上げてきた人間的叡智の豊かさと深さを正しく理解し、その知的地平と社会的役割にふさわしい評価を与えることが深く求められているとも言えるのである。
法的思考の本質は理論知ではなく実践知にあります。リーガルマインドは法に関する知識ではなく知恵にこそ認められるのです。実務法曹の固有の守備範囲は、時代の先端に立ち・鮮明な旗印を掲げて・華々しく社会をリードすることではありません。社会的摩擦の調整や紛争の解決などの地味な社会的活動にあります。現代は「未来に対する不安」が顕在化している時代です。そのような時代であるからこそ、法的思考がローマ法以来の長い歴史の中で磨き上げてきた人間的叡智の豊かさと深さを正しく理解し、その知的地平と社会的役割にふさわしい評価を与えることが求められています。法に関する知識ではなく、それを正義のために用いる知恵を重視すべき所以です。