定義という論法
他人を説得するレトリックに「定義」があります。定義には次の2種類があります(香西秀信「議論の技を学ぶ論法集」明治図書)。①「記述的定義」語の慣用的用法。その語が普通どのように使われているか示す。辞書の中で用いられる定義がその代表例。②「規約的定義」ある語の使い方の論者の約束。「この語をこれこれの意味で使う」と宣言する表明や学問領域内での述語の取り決めが代表例。両者の違いを意識ないと議論が全く噛み合わない事態が生じます。前者は定義の基礎を社会的共通了解に置いています。故に万人が同一の資格で定義に参加することができます。おかしな定義に対して「普通はそんな使い方はしない」というレベルの反論が可能です。しかし後者はある特別な領域において論者が権威を持って定めるものです。定義の基礎が社会的共通了解に置かれているわけではありません。「普通はそんな使い方はしない」という反論は無意味です。「規約的定義」を変更するためには、これと対抗しうる別の権威を立てて、旧定義を立てた論者を屈服させる必要があります。学問領域内での述語の取り決めの場合はその手順が確立されている場合もありますが、論者の個人的表明である場合は水掛け論に堕する場合もあります。規約的定義のひとつに「概念の分割」(@カイム・ペレルマン)というモノがあります。例えば「戦争は良くない」という言明に対し概念上「正しい(自衛)戦争」と「悪い(侵略)戦争」を分け真の意味で悪いのは後者だという論法で相手を論破するモノです。法律家の議論には詭弁と感じられるものが含まれています。それらと上手に付き合うためには上述のような「定義」(という論法)の意味を考えておく必要がありましょう。