5者のコラム 「役者」Vol.33

報道機関と弁護人の距離感

「福岡若手弁護士のブログ」でM弁護士はこう述べます。
 

報道に全然弁護士が絡んできておらぬので担当の弁護士はおそらく取材をシャットアウトしておるのであろう。一般の人には理解できぬと思うが弁護人はこの段階だと被告人の言い分しか聞いていない状況である。捜査当局の方針や被疑者や目撃者が捜査当局に何を話しているのか等も含めてこの時点では捜査当局からは一切弁護人に開示されない。だから被疑者の言い分が客観的に正しいのか、この時点で正確に把握することは不可能と言っていい。私が言うのもなんだが、この段階でペラペラ被疑者の言い分をしゃべるのは問題があると思われるし、実際のところ弁護人が事件の全体像をつかめているかどうかも分からない。この時点では弁護人は捜査当局・マスコミを含めて圧倒的な情報弱者であり、唯一被疑者の言い分を生で聞けるという点だけが情報の優位性である。とはいえ捜査機関に比べると圧倒的に話をしている時間は少ない。被害者の被害が甚大であり仮に私が弁護人であったとしても被害感情を考えるとなかなか口が重くなるのは間違いないと思っておる。被疑者が容疑を認めているのか否認しているのかも含めて開示しないことは一般の人には理解が困難ではあろうが、この時点で公表するかしないかの判断をするのは本当に難しいのだ。(7月8日)

被疑者の言い分を把握出来ていない段階で報道機関からコメントを求められても言うべきことは無いと私は感じます。刑事事件の弁護人として(それが将来の公判において一定の意味を持つことまでも考慮して戦略的に)話をしろと言われたら、M弁護士と同様「口をつぐまざるを得ない」というのが大方の刑事弁護人のスタンスでしょう。刑事事件の最終弁護方針を立てるのは通常は検察官請求証拠を検討した後です。台本が未だ確定していない中、いきなり舞台に立たされて一定の役回りを演じさせられることほど辛いものはありません。