5者のコラム 「芸者」Vol.9

商品社会と人気風俗嬢ランキング

ドイツの評論家ベンヤミンは「パサージュ論」でこう述べています。

売春の最強の魅力の1つは大都市があって初めて生じる。それは群衆の中で、そして群衆によって生まれる効果である。(略)ついでに言えば、金で買えると言うことそのものが性的刺激になりうる。この刺激はまた、女性の品揃えが多く、それによって女たちの商品としての性格が強められるに応じて増大する(内田隆三「生きられる社会」新書館より)。

市場社会では全てのものが「商品」です。商品には欲望対象たる物神(フェティッシュ)的性格があり「金さえあれば手に入れ得ること」自体が新たな市場の欲望を喚起するのです(カール・マルクス「資本論第1巻」大月書店「商品の呪物的性格とその秘密」を参照)。
 弁護士業は商品化を免れてきた数少ない職種でした。少数の人に開かれた「ブティック」であり庶民には縁遠いものでした。しかし弁護士人口増大・競争激化・法律相談センター充実・広告解禁により法律事務所の「スーパーマーケット」化が急速に進んでいます。紹介者がないと相談を受けない大弁護士は極少数派です。かかる弁護士業務の大衆化の流れが悪いとは思いません。弁護士が庶民にとって身近な存在となることは歴史的必然です。しかし今後の弁護士は自分を律していかないと商品化社会の大波に溺れてしまうように感じます。法律業務の商品化の進行により弁護士の芸者化が進んでいます。タレント的弁護士のテレビ進出や弁護士を扱うテレビ番組の流行はこのことを象徴しています。「有名な弁護士に依頼すれば負けるべき事件を勝つかもしれない」との欲望を抱く群衆が多数存在し、この群衆の欲望が番組を支えているのだと私には感じられます。最近は「人気弁護士ランキング」が本になっていますが私は「人気風俗嬢ランキング」に似ていると感じています。