原子爆弾の投下?
問題 「長崎は原子爆弾が投下された世界で2番目の都市である」という文章の間違いを指摘した上で正しい文章に書き直しなさい。
検討 問題の文章は以下の点において間違っている。
1 この爆弾は核分裂反応を利用する「核兵器」である。「原子爆弾」なる表現は正確ではない。
2 広島型がウランを使用したガンタイプ(砲弾型)であるのに対し、長崎型はプルトニウムを使用したインプロージョンタイプ(爆縮型)である。前者は(成功することが確実だったので)広島でいきなり実戦使用され、後者はトリニティ実験を経て長崎で実戦使用された。
3 この文章には主語がない。「投下された」ではなく「投下した」主体が存在する。もちろん主体はアメリカ軍である。それはB29爆撃機による(人体実験の性質を帯びる)空爆である。
4 この文章には「目標と結果の差異」が表現されていない。アメリカ軍の攻撃目標は長崎市の中心中島川にかかる賑橋だった。しかし実際には目標から大きく離れた浦上が火の海となった。それは当時のアメリカ軍の基準に照らしても明らかな「誤爆」であった。
5 浦上は(現在は長崎市の一部であるが)市の中心部とは異なる歴史的背景を持つ地区である。このため事後の市民運動において全市民が結集した盛り上がりを欠き、被爆遺構(特に浦上天主堂)の保存で広島のような広範な世論が形成されなかった(逆にアメリカの思惑に乗って破壊)。
結論 問題文の文章は以下のとおり訂正されるべきである。「長崎市の中で特異な歴史的背景を有する浦上地区は、アメリカ軍が、プルトニウム爆縮型核兵器により、空爆(誤爆)した、世界で唯一の都市地域である。」(山田克哉「原子爆弾」講談社ブルーバックス、高瀬毅「ナガサキ消えたもう一つの『原爆ドーム』」平凡社、ながさき「学」さるく「幻の爆心地を訪ねて」レジュメ)