原子からイオンへの成長
ナトリウムの原子番号は11です(ゆえに電子11個で中性です)。これに対し電子は第1軌道の2個と第2軌道の8個、計10個で安定しようとします。そこでナトリウムは電子1個を放出してナトリウムイオン(陽イオン)になりたがる性質を有しています。他方、塩素の原子番号は17です(ゆえに電子17個で中性です)。これに対し電子は第3軌道を8個にして計18個で安定しようとします。そこで塩素は電子1個を受け入れて塩素イオン(陰イオン)になりたがる性質を有しています。かような電子的過剰や不足を特徴とする原子はきわめて不安定で、高い反応性を有しています。これらはイオン化して初めて安定します(反応性が収まる)。ゆえに、ナトリウムや塩素の原子は自然界にはほとんど存在しませんが、そのイオンはそこら中に存在するのです。
私は「弁護士は原子からイオンへと成熟する」と感じています。登録したての若い弁護士は「原子」のような心を持ち、各々の理想に燃えて(対象と激しく反応して)新たな物質を造り上げようとします。エネルギーの過剰(熱意)があり、他方で何らかの欠如感(不安)があります。総体的に安定性が不足しています。良くも悪くもこれが若い弁護士の特徴なのです。しかし若い弁護士は他の者(依頼者・他の法律家等)と反応しあって安定性を身につけていきます。固体としての電子的過剰を他の固体の電子的不足とうまく組み合わせることによって別の化合物を作り出すのです。逆の面から言うと、それだけ反応性は鈍くなります。弁護士としてのエネルギーが低下していくのです。激しいエネルギーが必要な事案には安定しすぎた(イオン化した)弁護士は適当ではないでしょうし、熟慮が必要な事案では不安定な(原子的な)弁護士は適当ではないでしょう。医師が薬物の特性を考慮して処方箋を書くように弁護士の特性を考慮して依頼されたらどうでしょうか。