5者のコラム 「5者」Vol.80

分裂した自己意識の統合した形式による供養

私は理系少年でした。中学2年生の時にアマチュア無線の免許を取得し、新聞配達の給与を貯めたお金で無線機を購入。中学卒業時は久留米工専も受験しています。高校3年生の進路別クラス編成でも理科系クラスに入りました。しかし途中で嫌気がさし現役の受験は経済学部。1年浪人して社会学部に入りました。学部では哲学の学者になるべく大学院を目指してそれなりに勉強してはみましたが早々と自分の学者的能力の無さに気づかされました。その後、ひょんなことから司法試験受験を始めました。法哲学で卒論を書いて大学を卒業した後、5回目の受験でやっと合格しました。私は複数のことに関心が分裂して1つのことに集中できない性質を持っていました。学生時代の私の文章は情念やイメージばかり先行した判りにくいものだったと思われます。自分でも分裂し暴走する自己意識の制御に苦労する状態になっていました。そんな私にとって法律学の勉強は新鮮そのものでした。言葉の意味(内包と外延)が厳格に決められており表現方法にも一定のルール(法的文法)があります。自説を判りやすく論理的に構成してゆくことを求められます。司法試験の勉強を続けるなかで私はビョーキ(分裂した自己意識)が統合されて健康になってゆくのを実感したのです。
 実務に携わって良かったことは文章の読み手に対し敬意を払いながら言葉を構成する技術を訓練させて貰ったことです。特に準備書面は裁判官に理解して貰えないと意味がありませんから簡潔明瞭な文章を作ることを意識するようになりました。この「5者のコラム」は身につけた法的技術を借用しながら哲学や社会学などを素材にして書いているものです。分裂し浮遊していた学生時代の頃の自己意識を「統合した形式」で供養する自分なりの試みなのかなと感じています。

芸者

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