論理実証モードと物語モード
杉山直也他「プライマリ・ケア医による自殺予防と危機管理」(南山堂)はこう述べます。
「疾病disease」とは医師が病気を客観的事実としてとらえ、科学的に理解したものです。この「論理実証モード」の世界では病態生理から導かれる「原因→結果」という因果律が王様のように君臨しています。一方、患者は自己の病気を主観的な「病illnessの体験」としてとらえるために個々の患者が持つ解釈・期待・感情などを含む「物語(ナラティブ)」として理解しようとします。主観的な体験としての「病いの物語」は当然のことながら自然科学のような一般性や普遍性はなく個別性や恣意性に満ちているのでマニュアルやガイドラインは通用しません。PC医の診療は「論理実証モード」と「物語モード」を使い分けながら「疾病disease」と「病illnessの体験」両方をバランス良く、しかも深く掘り下げることが可能です。医師と患者の双方にとって身体症状の背後に潜む、心理・社会・倫理的な問題への気づきを得るためにはこのプロセスが必須であることは言うまでもありません。
要件事実は主張立証責任論の観点から事件を積極的事実の組み合わせで構成したものです。この「論理実証モード」の世界では「原因・結果」という因果律が王様のように君臨しています。他方、依頼者は自己の事件を「主観的な生の体験」としてとらえるため個々の依頼者が持つ解釈・期待・感情などを含む「物語(ナラティブ)」として理解しようとします。「私の物語」に一般性や普遍性はありません。個別性や恣意性に満ちているのでマニュアル化になじみません。ゆえに弁護士は依頼者の「物語(ナラティブ)モード」と裁判官が重視する「論理実証モード」を使い分けながら、両方をバランス良く掘り下げる必要があります。弁護士が事件の背後に潜む心理・社会・倫理的な問題への「気づき」を得るためには、両者の<統合のプロセス>が必須です。