企業内弁護士の選択と計算
小林正啓弁護士はブログでこう述べています。
弁護士が組織に雇用される場合の報酬をシミュレートするため、4大卒新人と比較してみよう。法曹養成制度の現状を前提にして新人弁護士は22歳の大卒より平均7歳年長とする。法科大学院の学費として平均約400万円を投じている。司法修習が貸与制になれば300万円の借金が加わる。そして年50万円~100万円の弁護士会費を支払う義務がある(もっとも新人弁護士の場合当初2・3年は半額程度に減額される場合もある)。これらの相違点を考えた場合、新人弁護士が企業に就職するとき同期入社の4大卒新人と比べ、年収でどの程度の待遇差を設けたら公平だろうか。投下資本700万円を10年で回収し会費月額約4万円を企業側が負担すると仮定しただけで月収(手取)で10万円の差となる。また7歳の年齢差を勘案すると、60歳定年と仮定した場合、企業内弁護士の給与を1・23倍しないと生涯給与が釣り合わない。すなわち4大卒新人(22歳)の月給を30万円とすると同期入社の弁護士(29歳)の月給は47(30×1・23+10)万円必要という計算になる。弁護士に言わせればこの待遇でも不満だ。なぜなら彼らは司法試験というリスクを取ってきたわけだし終身雇用が保障されないなら投下資本を早期に回収する必要があるからだ。一方、企業内弁護士を採用する側からみればどうなるか。司法研修所を卒業したばかりの平均29歳の弁護士に4大卒新人の1・5倍を超える47万円の月給を支払う価値があるだろうか。あるいは入社7年目の中堅社員を上回る給料を支払う価値があるだろうか。普通に考えて、ないだろう。
企業内弁護士が増えないのは企業と弁護士が「不合理な選択」をしているからではありません。「合理的な計算」をした結果として企業内弁護士が増えないのです。採用する側と採用される側の経済的背景を考えない法制度設計はいずれ破綻するでしょう。