他人のツラい義務を引き受けること
中川恵一医師はこう述べています(「専門書が伝えないがんと患者の物語」新潮新書)。
エリートとは偉そうにしている人のことではありません。他人の辛い義務を代わりにこなせる人のことです。昔の医者は「大丈夫」と言ってあげることで患者さんの辛さを代わりに引き受け背負おうとしていた面があったと思います。しかし昔の「お医者様」が今や「患者様」になり代わっています。エリートでなくなった医師の多くは重荷を自分が背負わず、患者さんに「自分で持っていてくれ」と投げ出しているように思います(206頁)。
以下はFB上の中村多美子先生(大分)保坂晃一先生(福岡)との会話です。
N 村上陽一郎先生に「Expertとは何だと思いますか?」と尋ねられて以来、同じ問題を考えています。喩えていうなら、枝分かれのあるマラソンを走っている人の横からアドバイスをするコーチのようなものでしょうかと答えました。Expertはそのコースのことをよく知っていて、その道の先に坂があったり崖があったり水たまりがあったりすることを知っているのですが、自分が走るわけではないのです。どのコースを選んで走り通すかは結局ExpertのアドバイスをふまえたランナーでExpertはランナーの選んだ道を一緒に伴走していくしかないのですが、という返事をしたように思います。
A そうですよね。アドバイスできるだけの「道の知識」を蓄積しておくこと・当事者に伴走できるだけの「車の手入れ」をしておくことがプロたる法律家の要件ですよね。
H 単に「大丈夫」と言うと、説明義務に反することもありますからね。正確な情報を提供した上で「望ましい方向に誘導する」のがプロの役目だと思います。
A 同感。患者に正確な説明をすることは不可欠ですが、全部をクライアントに丸投げする(プロたる弁護士が責任を取らない)こととは質的に異なるということなんでしょうね。