5者のコラム 「学者」Vol.11

人の生き様と社会経済構造

長山靖生「大帝没後」(新潮新書)に次の記述。

日露戦争に勝利した後、日本は八大国のひとつと言われ、いわゆる西洋列強に比肩する地位を占めた。しかし、これはそれまでのような明確な国家目標の喪失をも意味していた。徳富蘇峰云うところの「没国是」石川啄木の云う「時代閉塞の状況」である。しかも戦費を内外からの国債に頼った国家財政は破綻の危機に瀕していた。農村の疲弊と都市化による経済格差の拡大、資本主義の発展に伴う労働問題の発生など問題も山積していた。(中略)この時期、日本的な風土の基礎となってきた農村共同体の在り方を根底から揺るがすような「改革」が他ならぬ政府の手で推進されてもいた。財政が苦しい政府は行政の効率化のために町村の再編成を推し進めた。また村の鎮守である神社の統廃合、学校の統廃合を強引に行った。(中略)変化は都市でも現れていた。資本主義化が急速に進み産業構造が変化すると都市には労働者があふれたが彼らの多くは故郷の「家」から切り離された浮浪民だった(13頁)。

日本は石油ショック後の不況を乗り越え経済戦争に一時的に勝利しました。が、バブル期の金融戦争に完敗し停滞期に入ります。日本は国家目標を喪失し巨額の財政赤字を抱えるようになりました。農村は疲弊し貧富の格差も急速に拡大しています。政府自ら町村再編成を促し共同体の在り方を「改革」と称して根底から破壊したがっているところなど大正時代に近い。地方の法律相談でも農村の疲弊や経済格差拡大から生み出される問題が噴出します。弁護士に出来ることは個別の「現象」に対する対症療法に過ぎません。政治意識の高い弁護士の中には政治の現状に憤慨し「本質」を変える手術を行うと政治家を志し選挙に立候補する方も存在します。その気概は少し判る気がします。

5者

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