5者のコラム 「易者」Vol.49

予言の自己成就

予言の自己成就は社会学者R・K・マートンが定式化した概念です。予言によって、ある状況が起こりそうだと考えて人々が行為すると、そう思わなければ起こらなかった状況が現実化してしまうことを言います(井上俊他「命題コレクション社会学」筑摩書房80頁)。予言の自己成就は神話「オィディプス王」において見受けられます。神託によって「この子は父親を殺し母親を犯すであろう」と告げられた王子オィディプスが運命の悪戯により(本人の意思によらず)本当に神託されたことを実現してしまう悲劇です。これほどドラマティックでなくとも予言が現実化する事態は実際に世の中で現実に起こっていることです。例えば「ある銀行が倒産するであろう」という予言を大衆が信じ込んでしまうと取り付け騒ぎが起こり実際に銀行が倒産することがあります。受験に失敗するとの予言を信じ込み酷い受験ノイローゼになると、その受験生は本当に失敗してしまいます。また外交に関しても敵対する両国が「相手が戦争を仕掛けてきそうだ」という予言を信じこんだら本当に戦争になってしまいます。予言は、これを信じる人にとって「預言」となり得るのです。
 法律実務においても、ある状況が起こりそうだと考えて人々が行為すると、そう思わなければ起こらなかったはずの状況が実際に実現する事態は生じます。和解協議の場面において両当事者が「相手は和解条項を破るであろう」と本当に予測したら和解は成立しません。和解は「相手は和解条項を守る・自分も和解条項を守る」という予測の下でしか成立しないのです。双方がこの予言を信頼して・初めて和解が成就します。問題解決の見通しを述べることを求められる場面において弁護士が行う予言は、これに対して向けられる当事者(依頼者と相手方)の信頼が生じることによって自己成就します。弁護士は「予言の成就能力」を高めるべく研鑽を積まなければなりません。

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