5者のコラム 「役者」Vol.156

世の中への怒りと変革

是枝裕和監督が早稲田大学の入学式式辞としてこう述べています。

教員として早稲田の学生と話していて一番感じるのは世の中に余り不満がないということです。先生は何故いつもそんなに怒っているのですか?と何度か聞かれたことがあります。あえて挑発的に言いますが、あなたに不満や怒りが無いのだとしたら、それはあなたたちがとても恵まれているからです。いかに恵まれているかを自覚して下さい。そして恵まれていない人が貴方の周囲に存在していることに是非気付いて下さい。自らが誰かの世界の不幸や不平等に加担していないか?そのことを自らに問うて下さい。そうしたら見えないものがあなたの周りに見えてくるかもしれない。あなたのようには恵まれない人たちの存在が見えたときにそれでも不満や怒りを感じずに生きられるかどうか。恵まれている、それは確かにあなたが勝ち取った権利かもしれない。しかし、それは私たち大人が出した問いに上手に答えられたからに過ぎないと明日からは考えて、問いを出した私たちを否定しなさい。

修習生と接する際「世の中に怒りを感じていないんだな」と思うことがたまにあります。哲学徒の頃、私は社会の不正に対し怒りを有していました。不遇な人が自分の周囲に多数存在することを知っていました。それが学びを進める原動力でした。修習生は自らが世界の不幸や社会の不平等に加担していないか意識して欲しいと願っています。自分のように恵まれていない人たちの存在が見えたときに無関心で生きられるかどうか?修習生であることは貴方たちが勝ち取った権利ですが、それは先行する法律家が出した問いに上手に答えられたに過ぎない。明日からは問いを出した先輩法曹を否定しなさい。私たちが行う実務を(いったん習得して)否定しなさい。私たちの脅威になりなさい。そのような気概を持った若い法曹こそが沈滞した法律実務を変革することが出来るのです。

学者

前の記事

頑張れば報われるか
易者

次の記事

関係破綻の回避