バブル時代の回顧
私が大学4年生になった頃から日本社会は異常な経済状況になりました。世界中のカネが日本に集まり、不動産は未曾有の上昇を続け株式市場は史上最高値を続けました。当時「バブル」という言葉は聞いたことがなく、ニュースを賑わせていたのは「財テク」「提携ローン」「変額保険」等の金融用語でした。ダブルスクール族の学生は講義を「役に立たない」と軽蔑し、実務の役に立つ学習に精力を向けていました。私は哲学や社会学など「役に立たない」学問を学んでいましたが第2外国語(フランス語)は全然モノになっておらず、英語も実践的には使えない状態でした。大学院に行って研究者になる資格が自分にあるのか悩んでいました。そんな頃1冊の本を読み、私は自分の方向性がこれで良いのか更に考えさせられました。本の名前は「文学部の恐怖」です。
文学部を卒業した主人公がある出版社に入社します。しかし、その出版社が倒産し、主人公は債権者との交渉に直面させられます。主人公は文学部卒であるが故に、交渉の実務的知識は全くゼロです。そのため、主人公はひたすら債権者である印刷所や銀行の人たちに教えを請いながら、再建に努力します。その努力が評価され、主人公は再建した出版社の社長に抜擢されるのです。この本はバブルな世の中で文学部卒という存在を面白おかしく冷やかした著作。勿論、この本だけで私が人生の方向性を変えた訳ではありませんが、この本により私が「文学部(社会学部)の恐怖」を実感したのも事実です。私は大学5年生になって司法試験の勉強を始めました。「文学部の恐怖」の主人公と同じ気持ちで周りの人たちに教えを請いながら司法試験に要求される法律知識のイロハを必死に学んでいきました。受験生時代はバブル経済が加熱するばかりでしたが、世の中に背を向けて勉強していました。20年程前のことなのに何故か「遠い過去のこと」のような気がします。