クローズアップとロングショット
映画「俺は未だ本気出してないだけ」の原作漫画(青野春秋・小学館)を読む。何かに挑戦中だが芽が出ない若者(例えば20代の頃の私)が読むと涙に濡れること必至だ。「俺はいつまでこんなバカなことをしているんだろう」と、不安に苛まれながら過ごした苦い日々を思い出す。ときどき神のようなものが出現して「それでよいのか?お前」と告げるところなどリアルである。しかし当人にとっては(クローズアップだと)シビアな「悲劇」も、他人から見れば(ロングショットだと)こっけいな「喜劇」に過ぎないのだ。(FB投稿)
「人生はクローズアップだと悲劇だが、ロングショットだと喜劇に過ぎない」とは名優であり名監督であったチャップリンの有名な言葉です。映像表現を極めたチャップリンは(物語の筋だけでなく)撮影手法で観客の受け止め方が変わってくることを認識しました。クローズアップにすると撮影対象の感情や苦悩が浮かび上がります。そのために悲劇的な表現にマッチしています。他方、ロングショットだと個人の感情を離れた客観的な(突き放した)感覚が生じます。そのため(撮影対象が大真面目であればあるほど)逆に可笑しさが生じてくるようです。
法律事務所を訪れる相談者は悲劇の主人公です。その問題に対する自分の見方だけが思考を支配しており金縛りにあっている感じの方が多く存在します。そんな相談者には「視点を変えること」を促すことが有効です。少し身を引いてロングショットに変えることを提案します。多くの相談者の気が楽になります。狭い見地(クローズアップ)にとらわれた悲劇の主人公が広い視野(ロングショット)を得ることにより法律問題が「喜劇」に変わるわけではありません。が、心の余裕を持つことは事後の問題解決に有効に作用すると私は感じています。