5者のコラム 「医者」Vol.127

ちょいワルと付き合う

藤田紘一郎先生(東京医科歯科大学名誉教授)がWisdomでこう述べます。赤ちゃんはお母さんの胎内では無菌状態、免疫ゼロで過ごします。しかし外界に出るとインフルエンザ菌やさまざまな悪い菌がたくさんいるため、対抗できる体を作らなければなりません。そこで「ちょいワル菌」を体内に取り込むのです。良い菌を入れても免疫は発達しませんから、それがいろいろなものを舐めることに関わっているというわけです。生まれて直ぐにおっぱいも哺乳瓶も消毒して無菌室のような部屋に入れてしまうと、赤ちゃんの腸はきちんと発達しません。事実、生まれたばかりでアトピーになっている赤ちゃんの便を調べたら半分近くは大腸菌が1匹もいませんでした。ということはアトピーになっても治らない。成人になったら卵も牛乳も受けつけない体になってしまうのです。ですから赤ちゃんには自然にそのまま好きに舐めさせたらいいのです。不潔なように見えますが本当は必要なことなのです。菌の力を借りて人間の力を強めようとしているわけです。つまり体を強めるためには「ちょいワル菌」と付き合わなければいけない。良いやつと付き合うだけではだめなのです。
 少年は家庭内では免疫ゼロで過ごします。が世間に出るとさまざまな悪い人がたくさんいるので、対抗できる人間にしなければなりません。そこで「ちょいワル」と付き合うのです。良い人とだけ付き合っても免疫は発達しません。ですから生まれて直ぐに無菌室のような部屋に入れてしまうと少年はきちんと発達しません。教育熱心な親御さんには無菌状態を好む方もいますが、結果として少年を「心のアトピー」に陥らせる可能性があります。少年はそのままで世間に触れさせたらいいのです。これは「雑菌だらけの世間」の力を借りて人間の力を強める試みです。無菌室の中に隔離して「良いやつ」と付き合うだけではダメなのです。