5者のコラム 「役者」Vol.79

「型」と「人の話」

 中村勘三郎さんは若い役者さんに対し苦言を呈しています。

若い人はすぐ型破りをやりたがるけれど、型を会得した人間がそれを破ることを『型破り』と言うのであって、型のない人間がそれをやろうとするのは、ただの『型なし』です。

羽生名人は同じ趣旨をこう定式化しています

三流は人の話を聞かない。二流は人の話を聞く。一流は人の話を聞いて実行する。超一流は人の話を聞いて工夫する。

中村さんが言う「型」羽生さんが言う「人の話」は先人が長い年月をかけて形成した知恵・定跡を総称したものです。人間が大成するためには先人が形成した知見を謙虚な気持ちで集中的に学ぶ時期が絶対に必要です。考えるより前にまず覚える経験が不可欠です。考えながら覚えるのが一番良いのでしょうが、学びの途中で全てを理解することは不可能です。だからこそ理屈抜きで「型」を覚え「人の話」を聞く必要があります。法律実務を学ぶ場面も同じ。弁護士は司法試験と司法修習により一定の法律理解の段階に達しているという前提で実務を始めます。最初、実務には意味が良く判らない(不合理と感じられる)いくつかの決まり事があることを経験します。しかし、それを最初から否定するのは良くありません。自己流は実務家に受け入れられないからです。まずは実務を覚えることから始めるのが肝要。最初は(意味は判らなくても良いから)素直に型を身に付け習熟の程度に併せて少しずつ自分なりに工夫する必要があります。法律実務の「型」は先人が長い年月をかけて作り上げてきたもの。先人が形成した「型」に対しリスペクトを払い・会得した上で「型破り」すること・「工夫すること」こそが本物の法曹実務家への唯一の道なのでしょうね。

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