5者のコラム 「役者」Vol.68

高次脳機能障害の理解

 石橋文化センター小ホールで劇団ごっこバザールによる「チェンジ×3」を観ました。朝目覚めたら突然女性の姿になっていた男性のドタバタを描いた喜劇です。突然の事態に戸惑う恋人。身代わりを買って出る双生児の弟。カフカの名作「変身」を想起させるストーリー展開ですが、「変身」が救いのないまま不条理に終わるのに対して、この演劇は主人公が無事に男性に戻ることによってハッピーエンドで幕を閉じます。この演劇の「男性」「女性」をメタファー(隠喩)として考えてみたら如何でしょう?親しい人が突然に人格を変えてしまったら?
 生方克之氏は「交通事故損害賠償額算定基準」(青い本・平成24年版)の特集「高次脳機能障害者の諸側面」において被害者家族のストレスをこう説明します。

日本では、6割は行かないと思いますが、経験的にかなりの方が精神的に強いストレス状態に置かれ、よくうつ的な状態になる方も少なくないと感じています。静岡英和大学の白山氏が行った「脳外傷友の会」への調査では調査回収者165家族の56.4%にうつ傾向が認められ、うち23・5%は中重度であり、治療が必要とされる状態であったと報告しています。家族の言葉を借りれば「姿形は同じでも違った人間が近くにいるようにさえ思えます。違う夫がそこにいるんです。」「家の中に異星人がいるような感じがする時があります。」このような感情を抱くこと自体に家族の辛さを感じ取れます。(351頁)

高次脳機能障害は家族にしか判らない人格の劇的変容です。事故前に接していなかった人からはその障害が見えにくいものです。であるがゆえに賠償交渉において軽く考えられやすく家族のストレスへの対処が後回しになりがちです。弁護士は、親しい人が突然「異星人」になってしまった被害者家族の著しいストレスに対する想像力を育まなければなりません。

次の記事

強制の図式