5者のコラム 「学者」Vol.157

複式簿記による二重計算・企業活動者たる弁護士

 渡邊泉「会計学の誕生」(岩波新書)に以下の記述があります。

金銭貸借や信用取引に伴う取引も、コインに表と裏があるように、貸し手ないしは売り手と借り手ないしは買い主の両者が存在します。記録の正確性を検証するためにどちらか一方だけの記録ではなく貸し手と借り手の双方の記録の突き合わせが必要になります。この必然の結果として、簿記は借主(借方)と貸主(貸方)の二重記録、したがって複式簿記として歴史の舞台に登場することになります。しかもそれが損益計算と結びつくとき、フローとストック、別の観点からは原因と結果という二面からの計算となります。複式簿記の本質は、この継続記録によるフローの側面からの損益計算と有高計算によるストックの側面からの損益計算の二重計算にあります。複式簿記が複式と呼ばれる最大の要因は、取引を単に借方と貸方と双方に分けて記帳するからではなく、企業損益を費用・収益の変動差額計算と資産・負債・資本の増減比較計算の二面から計算するところにあります。(7頁)

 弁護士が取り扱う民事紛争の多くは「お金」に関するものですから、企業間取引を巡る紛争については取引内容の認識と測定(金の動きに関する記帳技術)に習熟しておく必要があります。何故ならば企業の活動は「複式簿記という言語」を用いて行われているものだからです。これは「他人の活動」を理解する上で重要であるだけでなく企業者としての「自分の活動」を認識する上でも必須です。弁護士職務も(金銭的には)企業活動という側面があります。その内容を複式簿記によって整理し税務申告する義務を負っています。企業活動者としての弁護士は会計の責任者でもあります。「複式簿記の原理」を理解して実践することが肝要です。

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