5者のコラム 「学者」Vol.144

知っていることと伝えること

 「日本には優秀なサイエンスライターが不足している」と指摘されます。三井誠「ルポ・人は科学が苦手」(光文社新書)の記述。

そもそも研究者は科学のことはよく知っているけれど、情報の伝え方についての訓練を受けているわけではありません。(略)注目されているのは受け手の感情に気を配り、共感を得ながら情報を伝えることの重要性です。「心」を通して「頭」に届けるのです。

これは弁護士実務にも妥当します。弁護士は法律のことは知っているけれど法律情報の伝え方について訓練を受けている訳ではありません。「自分が法律を良く知っていること」と「法律情報を他人に上手く伝えられること」は別の問題です。弁実務で意識しなければならないのは法律情報の受け手である依頼者の感情にも気を配り、その共感を得ながら法律情報を伝えることです。依頼者の「心」を通して依頼者の「頭」に届けるのです。

アリストテレスは演説に大切なものとして3つ挙げた。1つはロゴス(Logos=論理)。論理的であり事実であるということ。次にエトス(Ethos=信頼)。聞き手と話し手の関係であり、話し手の信用の問題だ。3つめはパトス(Pathos=共感)。この3つの要素が効果的コミュニケーションには必要だ。

弁護士が依頼者の心に届く仕事をするためには上記3つを意識すべきです。多くの弁護士はロゴス(Logos=論理)を重視しています。たしかに裁判所との意思疎通に於いては論理性が多くを占めます。が素人である依頼者が説得されるのはエトス(Ethos=倫理)やパトス(Pathos=情熱)によるものであることが圧倒的に多いと言えるでしょう。