5者のコラム 「役者」Vol.29

犯罪に対するクールな認識

 浜井浩一編著「家族内殺人」(洋泉社新書y)に次の記載があります。「犯罪や環境問題に限らず、最近のマスコミ報道の作り出す社会問題にはかなり脚色されたものが多い。これは視聴率競争の中で、ニュース報道が劇場化し、脚色されているためである。その結果、専門家ですら、報道を通してだけではその社会問題の本質を見極めることが困難になりつつある。筆者の専門である犯罪学や刑事政策の分野ではマスコミ報道のほとんどは視聴者の不安を共有し共感を得ようとしたり、問題を深刻に見せようとしたりして事実をかなり脚色する傾向が強い。最近のワイドショーで、キャスターといわれている人たちによって共通して使われている言葉に「許せない」や「信じられない」といった言葉がある。危機感をあおったうえで不安を共有し怒りを表出することで視聴者の共感を得る手法である」。(7頁)上記著作の執筆者陣は刑務所・少年鑑別所・保護観察所といった非行や犯罪を専門的に扱う機関の職員の方々です。各人の論考に共通しているのは家族内殺人を「事実」として(世間的・マスコミ的な先入観を排除して)淡々と認識し考察していく姿勢です。
 「家族内殺人は昔からあるし、増えているわけでもない。むしろ統計的には昭和30年代よりも減少している。日本の伝統ということで言えば、家族内殺人は日本の殺人の常に4割を占める伝統的な殺人であり、今に始まったことではない。(中略) 幸福な家庭はどこも同じだけれど不幸な家庭はそれぞれに不幸であるとトルストイが書いているように、家族内殺人は、家族という濃厚な関係があって逃げ場を失った感情が渦巻いて起こるものなのであり、他人がその動機を理解できないのは当たり前なのかもしれない。」(11頁)裁判員制度が始まる中で、こういったクールな認識の意義がどこまで市民の方々に判ってもらえるのか?私には予想がつきません。私が裁判員裁判の弁護を行うことは無いと思いますが、その全体的動向には注意を向け続けていきたいと思っています。

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