5者のコラム 「医者」Vol.51

無過失補償制度

 医療過誤訴訟で主に争点となるのは過失の有無。重要なのは判断の時点です。医療行為時と裁判時には間隔がありますから、事後的に判明した事情を判断要素に加えて良いかが問題となります。大阪地裁医事部は審理の方針を次のように説明します。

因果関係判断はレトロスペクティブな判断であるから、その立証について(過失とは異なり)当時の医学的文献のみでなく、最新の医学的知見(公刊等されている必要もない)を用いることが出来る。これに対し過失の有無の判断の基準となる医療水準は診療当時の医療水準である。この医療水準を立証するためには原則として当時の医学的文献による必要がある。また医療水準は個々の医療機関ごとに異なり得るものであるから、原告側は被告となる医療機関の性格等を予め検討しておく必要がある。(判例タイムズ1335号5頁)

 被害を救済するためには過失を広く認定する必要がありますが、過失を広く認定しすぎると医師が萎縮してしまいます。そこで医師の自由を確保しつつ被害者保護を図るために設けられるのが無過失補償制度です。医薬品の副作用に関しては昭和54年から施行されています。産科はこれまで訴訟に至る事例が多く、そのことが産科医療崩壊の一因だと言われ続けてきました。そのため、平成21年1月から産科医療においても無過失補償制度が制度化され、運用されています。患者側からも医師側からも問題点が指摘されていますが、これらは5年後に見直されることになっています。現在、政府は無過失補償制度の適用対象を医療一般に拡大することを検討しています(4月8日閣議決定)。しかし、これらには問題点も多いので、実現までにはまだ相当の議論が必要だと思われます。

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