5者のコラム 「5者」Vol.43

正義の味方?悪魔の手先?

 弁護士になって直ぐの頃は相手方に代理人が付かないとラッキーと思っていました。素人ならば当方の言い分を丸呑みにしてくれるのでは?などと安直に考えていました。相手方にうるさい弁護士が付いて鋭い書面が来ると「なんてこった」とため息をついていました。当時の私は弁護士業務のシビアな面がまだ判っていなかったのです。本年6月2日、横浜弁護士会の前野義弘弁護士が事務所を訪ねてきた男にナイフで刺され搬送された病院で死亡しました。犯人は前野弁護士が受任した家事事件の相手方本人であると報道されています。もし、この方に代理人弁護士がついていたら事件は発生していたか?代理人が付いていれば、この人の言い分を書面によって表明することができたでしょう。行動から推測する限り、この人は自分の言い分を言葉にすることが苦手なタイプであろうと思われます。自分が選任した弁護士さんに思いの丈を話し、それを代理人弁護士がきちんと文書で表明してあげれば、相手方代理人の法律事務所に乗り込んで殺傷する直接行動に出ることはなかったでしょう。弁護士の役割は依頼者の利益を実現することです。裁判所から客観性に立脚する和解案が提示されたとしても、依頼者を説得するポイントは、その案が中長期的視点からみて依頼者の利益に合致することにあります。書面上の攻撃であれば書面上で防御できます。それこそ相手方代理人の望むところです。弁護士は依頼者の不合理な情念が書面を離れ相手方代理人への直接攻撃に向かわないよう努力すべきです。ただし書面上であっても依頼者の言い分を素直に表現しすぎると相手方の怒りを買うリスクが生じます。依頼者の正義の味方は相手方から見れば悪魔の手先だからです。「相手方から見える自分の姿」を意識することが肝要です。

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