5者のコラム 「5者」Vol.146

正しい直感を導く美意識を鍛える

 山口周「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」(光文社新書)の記述。

では「測定できないもの」や「必ずしも論理でシロクロ付かないもの」についてはどうやって判断すれば良いのか?そこにこそ「リーダーの美意識」が問われるというのが本書の回答ということになります。つまり本書における「美意識」とは経営における「真・善・美」を判断するための認識のモードということになります。「真・善・美」の判断における理性と感性の問題について人生をかけて徹底的に考察したのが18世紀後半に活躍したドイツの哲学者イマヌエル・カントでした。カントは「純粋理性批判」「実践理性批判」「判断力批判」という3つの主著を残していますが、これら3つの著書はそれぞれが「真・善・美」判断について考察したものだと考えてもらって構いません。どれも極めて難解な本ですが、全体を通じてカントが指摘しているのは認識のモードを「理性」だけに依存するのは危険であり、正しい認識や判断には「快・不快」といった感性の活用が不可欠だということです。

 法曹が受任した事件を誤りなく正しい解決に導くためには判例に精通しているだけでは不十分です。社会の変化が早ければ早いほど目前に現れる事件は過去に前例のないものであることが頻繁に生じてくるものだからです。前例の無い事態に対して実務法曹が判断の基礎にする認識のモードを「理性」だけに依存するのは危険。何故なら「理性」は過去の情報を動員して論理的に正解を導こうとするが故に正解が存在しない局面に於いてはパニックになり「正しく積み上げ大きく誤る愚」を起こす可能性が高いからです。正解が存在しない局面に於いては「当たらずとも遠からず」という、直感にもとづいた暫定的概括的判断を行って少しずつ局面を見極めてゆくことが大切になります。かような正しい直感を導くのは「快苦」「美醜」の選別を鍛えられた美意識(感性)なのです。

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