有効需要を喚起すること
私は弁護士が要件事実と正義の呪縛で「筋の悪い事件」を受任しないよう注意を払ってきたこと・弁護士過剰社会では昔なら受任しない事件を提訴し有効需要を生じさせる活動が増えるだろうと論じました(5者67)。再度「依頼者に従順な弁護士」(5者60)が需要を掘り起こすことが悪いことか考えてみることにしましょう。法律業務の必要性には万人共通の基準がありません。企業法務は法的サービスの費用と便益が企業者からシビアに算定されますから弁護士側の事情でその量を左右できる一方的優位性はありません。しかし一般市民が接する法律問題に関しては供給者である弁護士の「法的手続に持ち込む基準」の設定の仕方を緩めることにより有効需要を喚起していくことが不可能ではありません。犯罪統計が警察官僚の取組方次第で操作可能なものであるように弁護士は要件事実と正義の呪縛を緩めることで原告側被告側双方に「有効需要」を生じせしめることが不可能ではないのです。当然、勝訴率は下がりますから原告代理人は依頼者たる原告本人との関係に気を遣わないと懲戒の可能性を生むことになります。私は「供給が需要を作り出す」というセーの法則をケインズが否定したことをふまえ、かかる前提に立つ司法改革論者の主張を批判したことがあります(5者57)。しかし改革論者を批判しても、短期的視点における現実問題としては、年々増え続ける弁護士の供給に対し、弁護士が不祥事を起こさない程度の「供給が需要を作り出す」のでない限り、法的サービス市場は崩壊してしまいます。新人弁護士2000人に各自500万円の収入(所得ではない・経費を控除する前の売上)を確保するためには毎年100億円が必要なのです。今後<食えなくなった弁護士>がいかなる「有効需要」を作り出すのか私にもよく判りませんが、この流れは政府の司法制度改革審議会が作りだしたものです。「食えない弁護士が不祥事を起こすこと」より「食うための事件を創出すること」の方が健全だと私には感じられます。