5者のコラム 「学者」Vol.22

日本の刑事司法の特徴(広くて浅い)

 王雲海教授は「日本の刑罰は重いか軽いか」(集英社新書)でこう述べます。
 

中国の刑罰は「狭くて深い」。よほど大きい行為だけが犯罪とされ、犯罪の範囲・射程は極めて狭いが、いったん犯罪とされたら刑罰は極めて重い。中国刑法典の総則13条には犯罪についての定義があるが、その但し書きに「その行為は情状が顕著に軽微で危害が大きくないときは犯罪とは認めない」という除外規定がある。しかし、いったん犯罪とされたら窃盗でも死刑まで認められる。手続的にも逮捕されるのはよほど重大な犯罪者だけであるが、いったん逮捕されたら保釈などはほとんど認められない。日本の刑罰は「広くて浅い」。日本の刑法典には犯罪の量的規定がないので犯罪の範囲・射程が常に極めて広い。手続的にも極めて軽微な犯罪に対しても容易に逮捕などの身柄拘束を行うことが出来る。その結果、法定刑が罰金などの軽い犯罪についても逮捕など刑事手続上の処分が安易に為されて、付随的手段に過ぎない刑事手続上の処分のほうが刑事実体法上の処分である刑罰を遙かに超える、より重い結果をもたらしてしまう。(169頁)

 日本の刑事司法の特徴は、犯罪の範囲・射程が極めて広いため、これを運用する機関に強大な権力が与えられていることです。犯罪構成要件が緩やかで効果としての刑罰も広く定められているため、裁判官に広い裁量を許しています。かかる広い裁量の中で比較的軽い刑罰を科すことに裁判官の存在意義が置かれています。他方、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれという概念が広く解釈されているため、逮捕請求するか否かに警察官の広い裁量が認められています。起訴するか否かに関しては検察官の裁量の幅が広く、かかる広い裁量の中で起訴猶予処分を行うか否かに検察官の存在意義が置かれています。日本では逮捕が世間からの排除を意味します(佐藤直樹「世間の目」光文社192頁以下)。有罪認定が為される前に逮捕だけで世間的には既に決着がついているのです。

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