5者のコラム 「役者」Vol.18

弁論の三分類と各々の目的特徴

 アリストテレスは「弁論」を以下の3つに分類します(「弁論術」岩波文庫)。
1 議会の審議的なもの・内容的に「勧奨と制止」、時間的に「未来」を議論。
2 法廷の陳述的なもの・内容的に「告訴と弁明」、時間的に「過去」を議論。
3 舞台の演技的なもの・内容的に「賞賛と非難」、時間的に「現在」を議論。
 アリストテレスは全ての領域に妥当する確実な原理を最初から想定していません。各領域で妥当する原理ないし規範はその領域が対象とする内容や時間により異なるというのが彼の主張です。その根拠として彼は各々の弁論の目的が異なるとします(同46頁)。1議会審議の目的は「利と害」です。2法廷陳述の目的は「正と不正」です。3舞台演技の目的は「美と醜」です。
 法廷は「過去」の事実に関する「告訴と弁明」の場であり、それは「正と不正」を唯一の基準として議論されるべきものです。法廷が「未来」に対する政治的な思惑(「勧奨と制止」)で動かされてはなりません。法廷は「現在」の行為者の演技についての評価(「賞賛と非難」)で動かされてもなりません。法廷が劇場化することは本来あってはならないことです。裁判が「過去の正と不正」ではなく「現在の美と醜」で議論されるとき、あるいは「将来の利と害」で議論されるとき、裁判はその独自の存在理由を喪失します。裁判が劇場化してしまえばソクラテスを死刑に追いやったような古代ギリシャの裁判に戻ってしまう危険性すらあります。このコラムにおいて弁護士が「役者」であるというとき、それはメタファー(隠喩)に過ぎません。メタファーではなく、弁護士が本当に役者になってしまうと政治や演劇と区別されるべきものとしての「裁判」は死んでしまうのです。

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