5者のコラム 「役者」Vol.58

司法臨床モデルの意味

 一般に「法的思考モデル」は①規範と当てはめの思考、②法的に意味のある事実とそうでない事実の峻別、③過去指向性、④2分法的判断(棄却か認容か)、⑤論理的整合性の重視、⑥直線的思考(因果論的思考の重視)を特徴としています。これに対して「司法臨床モデル」では人と人の関係が重視され、法的思考モデルと異なる以下の特徴があると指摘されます(廣井亮一「司法臨床の方法」金剛出版15頁以下)。①個別的基準(問題を抱えた「人」自体が依拠する基準となる。人の個別性・関係性が重視される。)②事実の多面的把握(事実の持つ「多義性」に着目する。事実に付随する諸要素を切り捨てない。)③未来指向性(時間軸における視野が「現在」から「将来」に向けられる。)④非分割的思考(法的論議における「白黒」の譬えでいうならば、臨床では「灰色」の領域を重視する。)⑤螺旋的思考(「揺らぎ」や「やわらかさ」を伴う非直線的な思考過程である。)⑥システム的思考(因果論的思考ではなく、物事の「有機的な相互関連」に着目する。)
 上記記述において法的思考モデルはかなり消極的に評価されていますが、法的思考モデルは実務的有用性があったからこそ長年にわたり実務の指針になってきたものです。したがって我々はその長所まで否定すべきではありません。実務家は法的思考モデルの意義と問題点を正確に見極め、議論の舞台に応じて両者を上手に演じ分けて行くべきだと私は感じます。