5者のコラム 「医者」Vol.150

医学(法学)の光と影

 酒井シヅ「病が語る日本史」(講談社学術文庫)に以下の記述があります。 

これまでの病気の歴史は医学の力で病気を克服してきた方に目を向けてきたが、本書は医原病など医学が犯した過ち・医学が置き去りにしてきた病気にも目配りをしている。生物学・科学を土台に身体的な研究を発展させてきた現代医学、とりわけ21世紀に入ってからの医学は発想を飛躍的に展開している。1つの細胞から臓器を作ることも夢でなくなった。しかしヒトだけを追求していては治らぬ病が多くある。こころと人間を癒やす医療が大切である。

 立法と司法の歴史叙述は「法律の力で悪を矯正したこと」に焦点が当てられてきたと言えます。たしかに学びの過程においては法の「光」の側面に目を向けることが何よりも大切です。しかしながら光の裏には必ず「影」があります。冤罪など法律家が犯した過ち・ハンセン病など法律家が置き去りにした問題もあります。サラ金の異常な高金利を容認する旧貸金業規制法など「立法府が自ら作り出した悪」さえ存在しました。法律家が一般の方々に加え続けてきた冷たい視線にも反省が要ります。司法研修所で学ぶ「要件事実」は依頼者の話を予め決まっている論理的枠組みの中だけで意味を見いだす特殊な思考訓練です。法律家が放つ、論理パズルによる精神的ナイフに心を引き裂かれ嫌な思いをした一般人は数多く存在します。この法律実務のあり方は(良い面もあったのでしょうが)悪い面も確かにありました。これまでの法律家は対象となる方を「ヒト」という抽象的人格として割り切って対応してきました。が今後は目前の「人間のこころ」と向き合う法律家の存在意義が高まるような気がします。その際(メタファーとして)他の職業の方が置かれている状況を僅かでも意識しておくことは将来何らかの役に立つのではないか?と私は感じております。

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