5者のコラム 「役者」Vol.160

僕には師匠がいない

光石研さんが西日本新聞(2021年3月16日)に寄稿した文章。

僕には師匠がいない。そもそも、あの舞台を観て衝撃を受け俳優を目指したとか、あの俳優さんの芝居を観て圧倒され憧れて俳優の道になんてのが無い。クラスのお調子者がたまたま映画のオーディションを受け受かったのに過ぎない。撮影現場が楽しくて、ふわふわとこの世界に入った。なのでプロになってからが大変だ。いまだに基礎的な発声とか滑舌に苦労している。その上映画的教養も演劇的教養もない。トホホである。となると学ぶは現場のみ。1つ1つの現場で教わることが実になった。スタッフの皆さんからも助言をいただいた。メイクさんにも顔にドーランを塗りながら、もう少しこうしたほうが良いよ、などと言っていただいた。演出部はもちろん、照明部にも録音部にも、スタッフの皆さんが役を育て、僕を育ててくれた。(引用終)

私は法学部生ではありません。大学生活における法律の師匠はいません。「あの事件における法の理不尽を観て衝撃を受け弁護士を目指した」とか「あの弁護士さんの活躍に憧れて自分も弁護士に」なんてのがありません。哲学社会学系の研究者を目指したお調子者が無謀にも司法試験を志し偶然受かったに過ぎません。なので修習生になってからも、プロの弁護士になってからも、大変でした。いまだに訴訟上の手順がこれで良いのか、不安になるときがあります。基礎的な法律学の素養に欠けているのではと感じることも多々あります。そんな人間なので学ぶは「現場」のみ。1つ1つの現場で教わることが勉強になりました。裁判官のみならず相手方代理人や書記官や調停員から多くの教示をいただきました。修習同期からも多くを学びました。多くの方々に教えられながら「トホホな私」も何とかここまで(30年近く)弁護士の仕事をやってこれました。感謝・感謝です。