5者のコラム 「医者」Vol.9

借金の現象学(罪業妄想・貧困妄想・心気妄想)

 芝伸太郎氏は鬱病の本質をこう説明します(「日本人という鬱病」人文書院)。
 

慢性的借金状態に追い込まれ苦しいながらも借金を返す努力だけは決して放棄しようとしない人、これが鬱病者である。この状態を何とか最後まで持ちこたえることが出来れば発病せずに済むのであるが、不幸にして一部の鬱病者は返済不能に陥り破産申請せざるを得なくなるのである(135頁)。

同書によると鬱病によく生じる妄想には以下の3つがあるようです(143頁)。
  1 罪業妄想  取り返しのつかない大きな罪を犯してしまった。
  2 貧困妄想  財産が無くなって無一文になってしまった。
  3 心気妄想  重篤な病気にかかってもう治らない。
 鬱病になる人は精神的な「資産」を遙かに超えた「債務」の重さに耐えられなくなります。その結果、自分はもう駄目だ(返済不能)と考えてしまうようです。弁護士は逆に鬱病をメタファーにして現実の破産者への対応を考えることが出来ます。
1 破産者は「罪業妄想」を有していることがあります。破産を世間に顔向けが出来ない犯罪だと思いこんでいる人がいます。ゆえに弁護士は破産手続は経済的立直りのために国家が設けている制度だと説明してあげる必要があります。
2 破産者は「貧困妄想」を有していることがあります。破産手続を取れば、本当に身ぐるみ剥がされて全くの無一文になってしまうかのような誤解をしている人もいます。ゆえに弁護士は自由財産制度について良く知らせてあげる必要があります。
3 破産者は「心気妄想」を有していることがあります。破産手続きにより、自分の社会的信用が全く崩壊して経済的復活はあり得ないと思いこんでいる人もいます。ゆえに弁護士は免責制度についてよく説明してあげる必要があります。