5者のコラム 「医者」Vol.44

プラセボ効果の謎

 プラセボとは、見た目は新薬と全く同じであるものの、全く薬理効果がない贋物のことを言います。新薬の開発では必ずプラセボとの対照がなされます。レスリー・アイヴァーセンはこう述べます(「1冊でわかる薬」岩波書店)。

プラセボ効果の正体は謎である。プラセボ効果の強さは治療方法の複雑さに関連している。錠剤の数が多いと1錠だけの場合よりもプラセボ効果が強い。静脈内注射だとプラセボ効果はもっと強い。みせかけの外科手術を行うと更に強くなる。多くの薬物療法と同じくプラセボ効果も反復投与すると弱まってくる。プラセボ効果は、人の心が体をコントロールする驚異的な能力を反映しているのであろう。

他方、富田伸先生は「精神科医というビョーキ」(西日本新聞社)でこう述べます。

僕が驚くのは実はプラセボの方にである。薬理効果のないはずのデンプンを服用した人たちの実に40パーセントの人に症状の改善が見られたというのである。服用した薬の方に効力がなかったとすると、服用した人に何らかの回復の力があったと考えざるを得ない。人には単なるデンプンをも薬に変えてしまう不可思議な能力が備わっているのだ。 それを「自己治癒能力」、あるいは「自己回復能力」と呼んでも差し支えなかろう。(略)プラセボを魔法の新薬に変えるだけの、あるいは患者さんの「自己回復能力」を最大限に引き出すだけの「呪術」を、かつてオカルト少年だった僕はいまだ手にしてない。

弁護士業務を行っていると事態が勝手に好転して解決してしまうことがあります。依頼者は弁護士のおかげと思いこんでくれて感謝されるのですが、自分としては何とも言えない不思議な気持ちになります。円満に解決したのは依頼者が元々持っていた自己回復能力のおかげだからです。

前の記事

財政構造と家計の類推