食品衛生法研修
ある会社から「食品衛生法の概略を解説して欲しい」と依頼され作成したレジュメです。私はこの分野の専門家ではないので参考資料を多く添付し理解に資するよう努めました。*若干省略
1 食品衛生法の目的(1条)
食品の安全性確保のため公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図る。*行政法としての特質
2 食品等事業者の責務
食品衛生法に違反すると営業許可取消や営業停止命令等の行政処分を受けるリスクあり。罰則が定められ違反には制裁がある。事業者の責務として努力義務(知識技術の習得・自主検査・記録保存・行政庁への協力など)を定めている。*現在「努力義務」を履践しないで「悪評」が立った企業への「市場反応」は極めて大である。1件の不祥事でも企業が潰れる程の影響力がある!
3 食品・添加物に関するルール
5条 販売の用に供する食品または添加物の採取、製造、加工、使用、調理、貯蔵、運搬、陳列および授受は「清潔で衛生的に」行わなければならない。 *その具体的内容は下位規範に。
6条 次の食品などを「採取・製造・輸入・加工・使用・調理・貯蔵・陳列」してはならない。
*対象:腐敗・有毒・病原微生物・不潔または異物の混入したもの
4 器具・容器包装に関するルール
15条 器具等は「清潔」で「衛生的」でなければならない。
16条「有害物質が含まれる等の器具若しくは容器包装」などの販売製造等禁止。
5 表示・広告に関するルール
20条「虚偽又は誇大な広告の禁止」 *詳細は食品表示関連法に委ねられている。
7 営業に関するルール
飲食店等の営業に関する許可制(55条)届出制(57条)
違反食品の回収と廃棄(59条)
違反に対する処分(60条)*営業許可取消処分、営業停止命令など
8 罰則(81条以下) *法人への両罰規定も存在する(88条):罰金上限は1億円!
別紙(2018年改正の7つのポイント)
1 大規模または広域に及ぶ「食中毒」への対策強化
国と都道府県の連携協力を明記した。広域連携協議会を設置する。
2 「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」の制度化
HACCPは食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上、それらの危害要因を除去または低減させるために「特に重要な工程」を管理し、安全性を確保する衛生管理の手法。営業者は、厚生労働省ウェブサイト「HACCP」内のコンテンツを確認するなどして、適切にルールを把握した上で工程管理を履践する必要がある。
3 特別の注意を要する成分等を含む食品による「健康被害情報の届出」の義務化
事業者が取り扱う指定成分等を含有する食品が「人の健康に被害を生じさせるおそれがある」旨の情報を得た場合は、当該情報を都道府県知事等に届け出なければならないとした。
4 「食品用器具・容器包装」へのポジティブリスト制度の導入
従前はネガティブリスト制度(規制対象になっていない物質については自由に使用可能という仕組み)であったところを、国際的な規制と整合的なポジティブリスト制度(安全性を評価した物質のみ使用可能とし「使用を認める物質以外は使用を禁止する」という仕組み)に変更した。
5 「営業許可制度」の見直しと「営業届出制度」の創設
「営業許可」業種が34種から32種に再編(法55条1項、施行令35条)。当該業種でなくとも営業を営もうとする者は常温で保存可能な包装食品の販売等を行う場合を除き予め「営業届出」をしなければならない(法57条1項、施行令35条の2)。営業者を把握し監視指導しやすくした。
6 食品等の「自主回収(リコール)情報」の行政への報告の義務化
食品等の自主回収(リコール)情報の行政への報告を義務づける旨の改正。
7 「輸出入」食品の安全証明の充実
(輸入)食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための措置が講じられていることが必要なものとして厚生労働省令で定める食品・添加物は当該措置が講じられていることが確実であるものとして厚生労働大臣が定める国もしくは地域または施設において製造し、または加工されたものでなければ、これを販売の用に供するために輸入してはならない(法11条1項)。獣畜および家きんの肉および臓器が対象とされる(施行規則11条の2第1項)。法6条各号に掲げる食品または添加物のいずれにも該当しないことその他厚生労働省令で定める事項を確認するために生産地における食品衛生上の管理の状況の証明が必要であるものとして厚生労働省令で定める食品または添加物は、輸出国の政府機関によって発行され、かつ、当該事項を記載した証明書またはその写しを添付したものでなければ、これを販売の用に供するために輸入してはならない(法11条2項)。生食用の「かき」および「ふぐ」が対象とされている(施行規則11条の2第2項)。
(輸出)輸入国側の衛生要件を満たすことを証明するための衛生証明書の発行手続等を定めた「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」が2020年4月1日に施行。
* HACCPの意義(HazardAnalysis and CriticalControlPoint)
完成品という「モノ」を意識した検査より製造過程という「プロセス」を意識した工程管理をするほうが客観性が高く効率も良いと考えられる。従来の抜き取り検査では完成した製品のロットからサンプルを抜き取って検査するためサンプルに選ばれなかったモノに危害要因を持つ製品が含まれる惧れがある。サンプルが基準を満たさなかった場合は基準を満たした製品があってもロットごと廃棄しなければならないため多大なロスが発生する。検査は完成品で行われるため製造過程のどこで問題が発生したのかを特定しにくいので原因究明が困難であることも課題として挙げられていた。これに対しHACCPは危害要因(ハザード)をリストアップして分析し危害要因を排除低減するため各製造過程に管理基準や許容限界を設定する。製造過程ごとに監視と記録を継続するので製造途中であっても問題が発生すれば迅速に対応でき原因の究明も容易である。抜き取り検査に比べロスを抑えつつ初期対応や原因究明も素早く実施できるので効率的に食品や製品の安全性向上を図ることができる。
* 簡単に言えば食品衛生法はプロフェッショナルを意識した「食の安全(客観)のための法」であり、食品表示関連法は消費者を意識した「食の安心(主観)のための法」です。
* 以上は行政法上の意味。食中毒が発生した場合、民事の法律関係としては債務不履行(415)契約不適合責任(570)不法行為(709)製造物責任法などにもとづく損害賠償責任の有無が問題となる。数件の判例を検討する(責任が肯定された事案と否定された事案の違いなど)。