非流動性を理由とする減価
離婚や相続で「法人の出資持分の評価」が問題となる局面があります。上場株式なら当時の時価が公表されているので問題は少ないのですが流動性が低い非上場株式あるいはこれに準じる法人持分の評価は争いの対象になりやすいものです。以下は家庭裁判所で議論したときの主張書面です。
1 流動性が無い(少なくとも「極めて低い」)ことを理由とする減価(ディスカウント)の要否可否については次の2つの最高裁判例の解釈が問題となる(判例時報2582・95を参照)。
イ 最高裁平成27年3月26日決定
非流動性を理由とするディスカウントを明示的に否定した。非流動性を意識し謙虚に算定された株式の価格につき、同評価方法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により「更に減価を行うことは相当ではないというべきである」との一般的な判示がある。
ロ 最高裁令和5年5月24日決定
DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法によって算定された本件各評価額から「非流動性ディスカウントを行うことができると解するのが相当である」と判示し、結論として30%の非流動性ディスカウントを肯定して株式価格と決定した原審判断をそのまま是認した。
2 両者の関係
両者は正確に読めば矛盾していないと考える。令和5年決定の理由に次の判示がある。
「もっとも譲渡制限株式の評価額の算定過程において当該譲渡制限株式に市場性が無いことが既に充分に考慮されている場合には、当該評価額から更に非流動性ディスカウントを行うことは、市場性が無いことを理由とする二重の減価を行うこととなるから相当ではない。」
すなわち平成27年決定の事案においては具体的計算過程において非流動性を織り込んだ計算が非流動性ディスカウントを行う前に既になされていたのに対して令和5年決定の事案においてはそうではなかったのである。したがって両者は基本となる計算プロセスが最初から異なっているのであり、仮にDCF法という「商業色の強い強気の評価基準」が適用されている場合は譲渡制限株式という非流動性ディスカウントを行うことが許され「非流動性を意識した謙虚な評価基準」が用いられている場合は当該評価額から更に非流動性ディスカウントを行うことは(市場性が無いことを理由とする「二重の減価」を行うこととなるから)相当ではない、と理解すべきことになる。
* 本件事案は抑制的評価基準(純資産法)が用いられていたので家庭裁判所は更なる「減価」を行いませんでした。控訴審(福岡高裁)で上記評価額を前提にした和解が成立しました。具体的な訴訟事案における議論は各々の事実(特に法人の成熟度)において微妙に異なりますので御留意を。
* 株式評価の一般論については江頭憲治郎「株式会社法第9版」(有斐閣)第1章を参照されたし。江頭教授は平成27年最判に批判的であり、この事案における「収益還元法」の割引率には上場会社の投資収益率およびβ値が用いられ「流動性の存在を前提とした価格が算出されている」として非流動性減価を否定した当該判旨は誤りである、と断定されています(19頁)。なかなか難しいですね。
ちなみに江頭教授は以前よく使われていた相続財産基本通達方式(国税庁)は「戦後早い時期に骨組みが作られたもので大量発生的事象を機械的に処理する目的のものに過ぎない」と酷評されています。また企業解体価値による評価は「ゴーイングコンサーンバリューを上回る場合にのみ使われるべき(最低限を画する)もの」で、この場合は貸借対照表上の「簿価」は使えず「現実の売却価格を想定した価格(時価)で再評価されなければならなない」とされます。会計理論上は当然のことと考えますが、実際の裁判所実務においてそこまでの配慮が行われているとは思われません。

