精神保健福祉法の保護者
昔、精神医療施設に医療保護入院をさせる場合、充分な同意能力を持たない患者のかわりに入院に同意し入院治療契約を交わすのは通常は患者の家族でした。精神保健福祉法において医療保護入院(33条1項:期間に制限のない医療保護入院)に同意できるのは「保護者」となっていました。この「保護者」は次の場合、特に家庭裁判所による選任を経なくても自動的に決まっていました。①結婚している場合は配偶者が保護者②未成年者は両親が連名で保護者③身内が1人を除き全然いない場合はその1人が保護者。そして①②③いずれでもない場合(例えば成年で未婚の場合)家族の中から誰が「保護者」となるかを決めて家庭裁判所が選任するという仕組みになっていました。
以下に挙げるのは30年近く前に起案した保護者選任の申立書です(大幅に抽象化)。
1 事件本人は20歳のころに統合失調症(当時の名称は「精神分裂病」)に罹患し事後は入退院を繰り返してきた。近時は小康を保っており、自立支援施設で研修を受けようとしていた。
2 しかし平成*年*月*日、実父が亡くなったため、これを契機として、事件本人の精神状態が極度に悪化した。同*月*日、*病院に医療保護入院(精神保健福祉法33条2項)することとなった。このときの入院に際しての「暫定的な扶養義務者としての同意」は申立人が行った。
3 事件本人には法定の「保護者」が存在しない(成年で、かつ未婚である)。
4 よって扶養義務者間で協議したところ、保護者として申立人が適当となった。
* この事案では申立人(本人の実兄)が保護者として選任されています。
* 平成25年6月19日、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律が公布され翌年4月1日から施行されました。改正法は保護者制度を廃止。家族の負担軽減を図るとともに精神科医療における家族の役割を(精神科以外の医療における家族と同様に)軽減することを目的としています。その上で「適切な入院医療へのアクセス」を確保しつつ医療保護入院における精神障害者の家族等に対する「十分な説明とその合意の確保」「精神障害者の権利擁護」等を図るため、医療保護入院の要件が「精神保健指定医1名の判定と家族等のうちのいずれかの者の同意」となりました。