移送の申し立て
裁判所間で裁判権を・どの裁判所が・どの範囲で行使するかを決めることを「管轄権の定め」と言い、訴訟法で規定されています。管轄権のある裁判所に訴訟を提起した場合、その裁判所で審理をするのが通常ですが、その裁判所の判断で他の裁判所に事件を移すことが出来ます。これを移送と言います。以下に挙げるのは私が提起した離婚訴訟に関し被告の移送申立に対して反論した書面です。
1 離婚当事者は原告と被告のみである。
申立人は被告両親が当事者的な地位を有するものと主張するが、本件の争点は「婚姻関係の破綻」の有無であり、離婚当事者である原告と被告の主張立証を尽くせば足りる。婚姻関係の破綻の有無は当事者双方の主張立証を客観的に総合考慮すれば明らかになる性質のものであり、離婚当事者でない者の供述で結論が変わってくるような性質のものではない。当事者ではない被告両親の直接的主張なるものは法的意味を有しない。被告の両親が本件訴訟で何を言おうと、それが*県内の出来事ではあれ「婚姻関係の破綻」「親権者の指定」「慰謝料の額」「財産分与の内容」の判断には関係が無い。これらの判断に現場検証が予定されているわけでもない。場所的意義のある話をしたいのであれば地図や写真を示せば足りる。被告両親の都合で本件訴訟を*県で行う意味は無い。
2 最も重要な利害関係人(準当事者)は子供である。
本件訴訟は子の親権者指定が争点になる。場合によっては子の意見を聞くことも予想される。福岡県の*市に居住している2名の子に関する親権者の指定の問題を*家裁で審理するなど不合理である。子供の意思や状態が重要な判断材料となる面会交流調停に関しては*家裁から福岡家裁*支部への移送決定が既に為されている。被告はこれに対し東京高裁に即時抗告をしたが棄却された。上記面会交流調停は本来は管轄がなかったのに当方で申立てた離婚調停に便乗して提起された。面会交流調停が御庁で行われることになるのであるから本案訴訟を御庁で行うべきことは自明である。
3 調停事件(東京家裁)の状況
*と福岡の交通手段は空路によることになるが福岡→*が夜到着、*→福岡が朝発着になる便しかないため、調停前夜に*に行き翌朝福岡に帰るスケジュールとなる。これを避けるため当職は被告代理人に対し東京家裁の合意管轄を打診したが拒否された。*家裁の調停は原告が多大なエネルギーを費やして申し立てたものである。被告代理人が最初からこれに関わる意識があるならば通常は最初から同席するべきであるし、仮に都合があわなければ事前に予定された期日の変更を申し出て充実した期日が行われるように配慮するのが普通である。しかし被告代理人は本件に於いて期日の無駄を回避するための何らの手立ても示されなかった。調停委員の配慮により「離婚するための条件提示を期日間に行う」という約束で、第2回目の期日が定められ相手方(被告)意見書が出されるのを待つことになった(その書面をみて話し合いの可能性がなければ取り下げる予定であることは調停委員と協議済みだった)。が、実際に出されたのは「離婚に応じることはできない」という形式的な準備書面だった。調停不調必至となったので調停を取り下げたのである。
4 双方利害の考察
本件を福岡家裁*支部で審理しても電話会議の活用により支障なく審理を行うことが出来る。申立人は直接に事情を訴える必要性を言うが、訴訟は争点整理を弁論準備手続で行い、和解が難しい場合に弁論準備で明らかになった重要な争点だけを人証調べすることが予定されている。被告本人は重要な人証になるが、被告本人にとって1回の尋問がそれほどの苦労になるとは到底思われない。他方、本件を*家裁で行う場合、原告は多大なエネルギーを費やして福岡から*まで出向く必要があることになる。これは両者間の社会的立場経済的地位などに照らし決して公正なものとは言えない。当方は既に*まで出向いて話し合いの機会を設ける苦労を行った。その貴重な話し合いの機会をつぶしたのは被告である。その後の法的手続は福岡でしなければフェアではない。
* 先行した面会交流調停申立事件につき「福岡家裁*支部に移送する」決定に対する相手方の東京高裁への即時抗告は棄却されました(福岡家裁*支部で行うことが確定)。上記東京高裁決定を受けて福岡家裁*支部は本案たる離婚訴訟に関する移送申立を却下する決定を行いました(確定)。