法律コラム Vol.132

不貞行為の慰謝料請求

不貞行為に関する相手方への慰謝料請求は「当然にできる」と考えるのが世間的反応と思いますが法律家は必ずしもそう考えません。全面的に否定する見解がある他、何らかの基準を用いて限定的に考えていく考え方が普通です。仮に裁判所が認容する場合も慰謝料相場は(世間的に考えられているよりも)かなり低いので驚かれることが見受けられます。以下に紹介するのは高額な慰謝料請求を受けた被告(男性)の依頼により作成した答弁書の一部です(大幅に補正・抽象化)。

1 原告のいう「不貞行為」概念の中身を示されたい。その上で概念該当行為の存在を示す具体的証拠を挙げていただきたい。その主張立証責任は原告にある。
2 不貞行為が当然に不法行為を構成するとの見解は少数説である(民法判例百選Ⅲ「親族相続」別冊ジュリスト№162の22頁・№193の22頁を参照)。①完全否定説が見受けられる他②夫婦関係を破壊する意図などの主観的要件で絞る立場(債権侵害の不法行為要件事実に依拠?)③暴力・詐欺脅迫などの客観的要件で絞る立場(これらはそれ自体が不法行為なので不貞行為慰謝料としては否定説に近いか?)④円満な夫婦関係の存在時期や破綻時期との関係で絞る立場などが見受けられる。
3 原告のいう夫婦関係「破綻」がこの時期であったとの主張は強く争う。原告と*氏は少なくとも平成*年*月時点では「円満な夫婦関係」には全く無かった。このような時期の「不貞行為」はそもそも賠償対象となる「不法行為」ではない(最判平成8年3月26日参照)。
4 当時*氏は複数の異性と継続的交流があり円満な夫婦関係は存在しなかった。かかる原告が(裁判所からは絶対に認容されない)金1000万円もの高額な慰謝料を主張していたことに不自然なものが感じられる。本件は有力学説が強く憂慮している「美人局」的印象を抱かせる。

* 本件については裁判所から強力な和解勧告があり50万円の一括支払いで和解が成立しました。これは事案を早期かつ円満に終わらせるための「解決金」です。
* 二宮周平「家族法(第5版)」新世社60頁によると英米法系諸国では不貞行為相手方への慰謝料請求権は否定されているようです。国際的潮流を受けて判例が変化する可能性もあり得ます。
* 蛇足ながら本文は不貞行為自体の慰謝料に関する問題です。事後も夫婦関係が継続している場合(夫婦関係破綻の原因になっていない場合)の問題です。これに対し不貞行為によって(元は円満であった夫婦関係が壊れた場合)一方が他方を「許さず」愛人をも慰謝料請求の対象にすることは全く別問題です。当該婚姻関係が「不貞行為を原因として」破綻し離婚に至り、配偶者に慰謝料を請求するとともにその原因を生じさせた愛人に対し破綻原因を生じさせた慰謝料請求をすることは普通にあり得ます。配偶者について損害賠償債務を免除し相手方の責任を追及することさえ可能とされます(最判平成6年11月24日判時1514・82)。当然ながら請求が認められるためには不法行為の要件事実(故意または過失・違法性・損害の発生・相当因果関係)を全て満たす必要があります。

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