法律コラム Vol.63

刑事弁護入門

司法修習生に対する講義用レジュメ。法律家以外の方々にも刑事弁護の初歩的な内容がお判り頂けるのではないかと思いアップします。

第1 自白事件(情状弁護)
1 総説 
  犯情(犯行自体に関する事情)と一般情状(それ以外)の区別・立証方法の意識
2 犯情
(1) 態様  悪質性(凶器・計画性)が無いこと=単純性・素朴性・偶発性
(2) 動機  背景(犯行に至る経緯)の考察
    *「被害者の落度」は諸刃の剣・慎重に考慮すべし
    *やわらかな決定論(@平野龍一) *「自由意思」幻想を排する
(3) 心身状態  責任能力の評価
    *医学的考察(精神医学の本を読んでみるのも面白い)
    *薬物親和性の考察(刑罰よりも治療)
(4) 結果(実害の有無・被害弁償・保険との関係)
    *被害者無き犯罪における贖罪寄付の考慮
(5) 共犯との関係
    *役割の考察(消極的・受動的・末端的な地位)
3 一般情状
(1) 反省意思  立証方法を工夫する(公判供述で足りかる?)
(2) 被害弁償  還付の確認・交渉方法・示談書の文言・弁償の額
(3) 社会内更生の必要性と許容性
 イ 必要性  若さ・学業・職業的不利益・親族の必要・短期自由刑の弊害
 ロ 許容性  家族の監督・生活改善(暴力団からの脱退)・能力資格
(4) 前科   存在するか・あったとしてその内容は(関連性の無さ)
(5) 長期間の身柄拘束  既に刑に準じる社会的不利益を受けている
第2 否認事件
1 総説 一般化は不可能に近い (個別事案において格闘するしかない)
2 捜査手続の諸問題
(1) 接見 勾留状謄本による事実確認 取調状況の確認
    *接見すること自体の意義(拘禁反応への対応)
(2) 身柄
 イ 保釈申請 人質司法の状況(第1回公判前の保釈の現状)
 ロ 移監の申立 結構認める(拘置所は居心地が悪いとのこと)
(3) 独自調査
 イ 関係者との面会(証人威迫と認識される危険性に留意)
 ロ 現場検分(必要性あれば必ず行う・写真撮影も)
 ハ 弁護士会照会(限界あり・訴訟上の証拠収集を考慮)
3 公判手続の諸問題
(1) 事前準備
 イ 検察官との面会・書記官との調整
 ロ 書証の謄写と証拠構造の把握 
(2) 冒頭手続 *求釈明の意義(争点の明確化)
(3) 検察官立証
  イ 書証 認否の厳格性(全部不同意と部分不同意) 
  ロ 人証①採否決定の問題(異議理由になるか?)
        ② 主尋問への異議(刑訴規則の確認)
        ③ 反対尋問の工夫(主尋問の範囲内という壁)
(4) 弁護側立証
  イ 冒頭陳述の要否(アナザーストーリーの要否)
    * 裁判官は求めることが多い・無罪推定原則との関係?
  ロ 立証趣旨と立証方法の問題(伝聞証拠・弾劾証拠?)
4 事実認定上の問題点(証拠構造による類型)  
(1) 直接証拠型
  イ 被告人供述(法曹会「自白の信用性」を参照)
  ロ 目撃者供述(同「犯人識別供述の信用性」を参照)
  ハ 共犯者供述(同「共犯者の供述の信用性」を参照)
(2) 間接証拠型(同「状況証拠の観点から見た事実認定」を参照)
  イ 証明力の高い客観証拠  
   ① 筆跡・血液等の同一性証明物 *科学的証拠の意義と危険性
   ② 犯人が持つ可能性大の物(贓物・凶器等)の近接所持 その評価
  ロ 単なる状況証拠
   ① 併存的事実(可能性と不可能性)
   ② 予見的事実(動機・能力・習慣)
   ③ 遡及的事実(有罪意識による行動)
(3) 法的評価型(外形的「事実」に争いが無いもの)
    文献の収集・法学者への意見照会など
 5 ケース研究

* 現在は公判前整理手続と裁判員裁判が施行されています。手続に関する上記説明は古くなっていると思われます。
* 責任能力に関しては、その後に施行された心神喪失者医療観察法との関連を意識する必要があります。治療のための強制入院が相当長くなることもあるようです。
* 近時出版された法曹会「科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方」は良い文献。この場面でも「不確実な科学的状況における法的意思決定」が困難な問題を抱えていることを認識させられます。

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