法律コラム Vol.139

未成年後見終了後の訴訟対応

私が未成年後見人の職務を遂行した少年が成年になり後見終了した後「訴状が届いた」と相談してきました。訴状を見ると「知人がアパートを借りるときの連帯保証人になったところ知人が滞納したので支払を請求された」事案でした。以下は答弁書(被告の主張)と準備書面の骨子です。

1 被告*は、平成*年*月*日、*家庭裁判所*支部平成*年(家)第*号事件で未成年後見が開始された。未成年後見人として選任されたのが当職である。当職は事後ほぼ無償で後見人の職務を遂行した。背景には同人の父親が(借金苦により)自死された事実が存在する。当職は精神遅滞・注意欠陥多動性障害(ADHD)自閉スペクトラム症(ASD)を罹患している同人のために金銭管理の他「ケース会議」(*児童相談所・*市福祉部・*県*特別支援学校・障碍者支援施設など)にも月1回ペースで出席し、被告が荒々しい世間により酷い仕打ちを受けないよう努力した。
2 被告は改正民法により「成年に達した」とみなされ未成年後見事件は終了した。しかし同人の知的能力と管理能力の低さに鑑み当職は*家庭裁判所*支部の裁判官と協議し、事後も同人が裁判所の公的保護下に置かれるよう補助開始申し立てをした。裁判所はこれを認め、令和*年*月*日補助を開始する審判が行われた(乙*)。審判書の別紙同意行為目録記載行為をするには補助人の同意を得なければならず、代理行為目録記載行為に関しては補助人に代理権が存在する。
3 本契約は「事業場の外で」行われた。同意行為目録2は「不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為(3号)中「訪問販売」による契約締結を規定する。本件契約は「保証」であり「販売」ではない。しかし*家庭裁判所*支部が同意行為目録で「通信販売」と並び「訪問販売」を明記した趣旨は、これらが通常の契約と異なり事業所外で行われるがゆえに安易に締結されやすく、知的能力の低い者が騙されやすい経験則にもとづき補助人の同意を要する行為とする必要性が高いと判断したためである。ならば「販売」に限らずとも、これに匹敵する「社会的危険性の高い行為」は同号の趣旨を類推適用し補助人の同意が必要と解すべきである。保証は他人の債務を負うだけの行為であり本人に何の利益もないのであるから保護の必要性が高い。しかるに本件契約において補助人の同意が得られていた事実は存在しない。よって本件契約に向けた意思表示はこれを取り消すことができると解すべきである(民法17条4項)。*年*月*日、本件法律行為を取り消す旨の意思表示がなされ、この通知書は*月*日原告に到達した。ゆえに本件契約に法的効力は存在しない。
4 実質的にみても連帯保証の悲劇を根絶させるべき社会的要請が存在するところ(2020改正民法の立法事実)本件では①同人の父が借金苦で自死された事実が存在すること②同人が精神遅滞・注意欠陥多動性障害・自閉スペクトラム症に罹患していること③被告が世間から酷い仕打ちを受けないよう公的努力が継続されてきたこと等に照らし「自己責任でリスクを選別すべき」原告が保証契約履行を「被補助者たる」被告に求めるのは信義に反し、または権利の濫用である。

* 大分簡裁は請求を棄却しました(2025/3/27)。原告からの控訴は無く確定。形式だけで議論すると認容の可能性もあっただけに裁判官が実質的判断をしてくれて感謝です。
* 本件の訴訟対応は無償です(未成年後見業務もほぼ無償でした)。法テラスと縁を切った代償として、この手の事案に関しては経済的意味を度外視して対応しています(なお「ほぼ無償」と曖昧に表現したのは未成年後見業務について「弁護士会の援助」を少し受けたからです)。
* 少し意見を言わせていただければ、当初の補助開始審判の別紙「同意行為目録」に記載される行為が狭すぎる。個々的に列挙するのが無理なら「被補助者にとって著しく不利な契約」「被補助者が一方的に債務を負う契約」など『一般条項的な行為類型』を定められないかと感じます。被補助者に不利な契約類型を事前に具体的に定めるのは不可能だからです。そうしないと「補助人に取消権を与えて被補助人を保護する」立法目的は果たせないように私は感じます。

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