αバージョンとβバージョン
糸井重里「インターネット的」(PHP文庫)に以下の記述があります。
1万人のユーザーに無料で配ったαバージョンのソフトに、仮に100のバグ(プログラム上のミス)があったとしたら、それに制作者は修正を加えてβバージョンをつくることになります。ここまでの「バグ・チェック」という仕事を制作者たちが社内でやったとしたら、単純に考えれば100人で間違い探しに取りかかっても百日かかるという計算になります。しかもその百日の間100人の作業に対して給料が支払われているわけですから、そのコストは商品の単価に影響します。しかし、無料で”欠陥があるのを承知の方は使って下さい”というメッセージを加え早産のように市場に放してやると、たくさんの目で実際に使ってみての「バグチェック」をしてもらえるわけですね。(89頁)
かつての出版の世界では著者が権威を有していました。他の人に読ませるために「書く」という作業は特権階級の者だけに許された贅沢な行為でした。出版の世界には厳密な校正を行う専門の方がおられ、記述上のミスや製本上のミスが生じないよう細心の注意(バグチェック)が払われてきました。流通した本を改稿・再製本するには大変な手間がかかるからです。こういうプロフェッショナル意識に支えられて「出版の世界」は成り立ってきました。このコラムはかようなプロ意識にもとづいて作成していません。「ウェブ上の世界」では他の人に読んでもらうために文章を「書く」という作業は誰にでも出来る日常的行為に過ぎません。厳密な校正をする専門の方がいませんし記述上のミスが生じないような細心の注意も払われていません。初見のコラムはバグがあるかもしれないαバージョンです。読み返して間違いを発見した場合には補正してβバージョンにしています。アップして間がないαバージョンコラムには注意してくださいね(βバージョンだって危ない?)