物語に心酔する「士」の末路
「ドン・キホーテ」は近代文学の祖と評されているセルバンテスの名作です。スペインの田舎であるラ・マンチャに住む郷士が「騎士道物語」を読み過ぎ 狂気にとらわれ自ら時代錯誤の騎士になりきり「この世の不正を正し・弱きを助け・強きをくじく」ために遍歴の旅に出る。しかし、この世の現実と衝突し、結局は夢破れて郷里に帰り、正気に戻って死ぬという物語です。これを映画化したのが「ラ・マンチャの男」であり、ピーター・オトールの演技が絶賛されました。主題歌の歌詞。
見果てぬ夢を追い かなわぬ敵に挑む 堪え得ぬ悲しみに堪え勇者も行かぬ地へ向かう 正せぬ誤りを正し 清きを遠くより愛す 疲れ切った腕で届かぬ夢をつかむ これが我が旅 星に向かってゆこう 叶わぬ夢でも いかに遠くても 正義のために戦う 問いも休みもなく 至上なる戦いのために 地獄へも行こう
この栄光の旅に背を向けることがなければ死しても我が心は安らかに眠ろう 世の中を良くするため 男は笑われ傷を負い最期まで戦うのだ 届かぬ星をつかもう
昔、弁護士を志す若者の多くは何らかの物語に心酔し、この世の不正を正し・弱きを助け・強きをくじくため実務法曹という「遍歴の旅」に出ていたと私は記憶します。たとえその物語が世間からみて狂気と言い得るようなものであっても、それを己の「正義」と信じ世間と戦うことを生き甲斐としている弁護士は多くいました。当時は弁護士の経済環境が恵まれていたので最後まで自己の信じる「物語」(正義)を追求し「人生に満足しながら」安らかに死んでいく弁護士が多くいたのです。弁護士が「信条と生活を両立し得た」古き良き時代だったと言えるのでしょう。