身体を使った感情表現・心療内科との連携
河合隼雄編「ユング派の心理療法」(日本評論社)に以下の記述があります。
日本語には身体を使った感情表現が多い。たとえば「頭が痛い」(困っている)「目がくらむ」(理性を失う・多忙・めまいがする)「胸がどきどきする」(不安である・興奮している)「胸が痛む」(つらい・悲しい)「腹が立つ」「はらわたが煮えくりかえる」(強い怒り)「吐き気がする」 「ムカつく」(不快で受け入れることが出来ない)などなど。これらの身体に密着した感情表現のいくつかは、そのものズバリ身体症状である。臨床現場でこれらの症状が訴えられたときに特に客観的所見が見つからない場合には感情が非言語的に表現されている可能性がある。強い情動は自律神経を介し最初は機能的に血圧上昇したり、心拍が増加したり、腸管がけいれんしたりする作用を及ぼす。その影響が強すぎたり長期にわたったりすれば各臓器に明らかな病変を生ずる。
弁護士は依頼者から「頭が痛い」「目がくらむ」「胸が痛む」「腹が立つ」「はらわたが煮えくりかえる」「ムカつく」といった強い感情を表現されることがあります。しかし弁護士はそれがズバリ身体症状そのものであるとは考えていません。通常弁護士はそれらの言葉を何かの喩え(メタファー)として認識していることが多いと言えますが、上述のように強い情動は自律神経を介し最初は機能的に血圧上昇したり、心拍が増加したり、腸管がけいれんしたりする作用を及ぼすものです。これらの言葉はメタファーではなく、事実(身体症状)である可能性も十分にあり得ます。人間のこころと身体は有機的一体として反応しています。ゆえに弁護士は依頼者が述べる言葉を(医学的見地も含め)事実そのものとして受け止めるべきときがあります。依頼者に心因的な不調が認められる場合、心療内科医と連携しながらアドバイスをする必要がありましょう。