5者のコラム 「学者」Vol.100
自らの存立根拠を否定する思想を拡げる
江戸時代思想史で特筆すべきは水戸学。この水戸学の特徴は次の3点。
1 神功皇后の女帝論否定(直ちに応神天皇に移行させ本紀から除外)。
2 大友皇子の天皇即位を肯定(天武天皇の即位方法に消極的評価)。
3 南朝正閏論(後醍醐天皇を正統・足利尊氏を逆臣として記述)。
武家政権は(朝廷が武士による政治に口出しをせず形式的任命権にとどめる)北朝型天皇制を正統としてきました。が、水戸藩は朝廷が自ら軍事力を持ち政治を動かそうとする南朝型天皇制を正統としたのです。この政治的な意味は多大。倒幕派が大義名分を得て幕末政治運動の原動力となります。幕府を支えるべき水戸藩が自分の首を絞める政治思想を生み出すとは不可思議です。
「司法改革」と称される近時の政治動向も同様に評価され得る要素を含んでいます。それが制度化される遙か以前から、日弁連の有力者は次のような主張をしてきました。①司法研修所教育の批判(司法研修所を「官僚主義的法曹養成機関」と批判するためにアメリカ型の「ロースクール」を崇拝する弁護士が少なからず存在しました)。②陪審裁判の理想化(キャリア裁判官による刑事裁判を批判するためにアメリカ型の「陪審制度」を賛美する弁護士が少なからず存在しました)。③法曹需要の過大見積もり(「法化社会の到来」のキャッチコピーに浮かれ「供給が需要を作り出す」と勘違いした弁護士が少なからず存在しました)。日弁連は弁護士の未来を考えるべき総本山でありながら自らの存立根拠を否定しかねない「過激な司法改革思想」を推進し過ぎたのではないでしょうか?