5者のコラム 「医者」Vol.104
聞く・見る・対等・専門・読む
熊倉伸宏医師は医療面接の要素を5つ指摘します(「面接法」新興医学出版社)。
1 聞くこと:面接の入門者は、必ず話を「よく聞くこと」が大切と教わる。そんなことは言われなくても判っていると言いたくなるほどである。相手は生きた人間であり話し手は「自分の思い通りにならない抵抗」として存在する。
2 見ること:来談者が「専門家として鍛え上げられた冷静な観察眼を持った面接者」を求めるのは当然である。そうでなければ自分を助けられないと思うからである。しかし、それだけではない。人は困難な状況で「自分を見守ってくれる他者」を求める。
3 対等な出会い:他者としての来談者は面接者が正しいと思っていたことすら覆す力を持つ。それが他者の力である。来談者を観察対象とのみ見て、その力を初めから除いてしまえば、他者理解は表層的になることを避けられない。新しく来たケースに関しては誰もが初心者なのである。
4 専門的関係:専門性は一定の経験と理論で裏付けられている。心の専門家であることの困難さは「自分の行う面接の拠り所を何処に求めるか」である。人が生きることについて「来談者に負けない程度に探求する姿勢」がないと、彼らの話については行けない。
5 ストーリーを読むこと:ある人を「分かった」というときは「相手のストーリーが自分の中に出来た」ということ。ストーリーとは人の生き方を時間的につないで筋道がわかるように言葉にしたもの。専門家は「無限なもの」を「有限な言葉」に定着させる技法を持たねばならない。