個人的経験と感情を仕事に活用する
舞台上の役者が真に迫る演技をするためにはどうしたら良いか?これをを理論づけたのがロシアの演出家・スタニスラフスキーです。彼は「役者の演技が迫真性を得るためには台詞に感情の裏付けがなければならない」とし、それまでの人生で経験した諸感情(悲しみ・喜び・怒り・嫉妬など)を想起し演技に活用するよう演出しました(役者28)。
弁護士も、舞台に立つ役者として、自分の個人的経験と感情を活用しています。例えば交通事故の事案。私は被害者になったことがありますし(小学生の頃トラックに撥ねられた)加害者になったこともあります(高校生の頃バイクを運転中に歩行者にぶつかる)。それらのゆえに、両者の相談を(ある程度)自分の経験に重ね合わせることが出来ます。例えば不動産の事案。私はアパート賃借人・戸建て賃借人・マンション所有者・マンション賃貸人・戸建購入者・リフォーム発注者・新築発注者など多くの立場で不動産に関わりました。ゆえに各契約に特有の悩みや不安や喜びや問題点を(ある程度)共有できます。弁護士業務は要件事実(論理パズル)を通して依頼者の話を分析し再構成する作業です。しかし冷たい論理パズルだけでは依頼者の共感を得ることが出来ません。事件当事者は感情を持つ主体だからです。依頼者が「自分のことを判ってくれている」と感じるのは弁護士の反応の中に共感感情が込められているときです。ゆえに弁護士の感情が経験に裏打ちされていることが望ましいのです。良いことも・悪いことも人生経験の全てが弁護士業務の役に立ちます(未経験のことのほうが多いので他世界への想像力も鍛えなければなりませんが)。準備書面を書くときに私は自分の経験を想起しながら少し感情を加えます。怒り・悲しみ・苦しみを少し込めます。そのことで依頼者への共感力が生まれてくると考えています。