5者のコラム 「役者」Vol.119

正義とは何か?を考えさせるウルトラマン

「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」は以下の筋書き。
 沈んだ画面の中で貧しい少年・良が河原を毎日スコップで掘っている。彼は「宇宙人」と呼ばれ地元の中学生から壮絶なイジメを受けている。少年は中学生たちから土に埋められ・頭の上から泥水をかけられ・鍋で作っていた飯をひっくり返され・下駄で踏みつけられる。少年が怒り涙を流しながらたいまつを振り上げると、逃げた中学生たちは遠くから猛犬をけしかける。良の家族は戦後日本社会の歪みを背負った形で崩壊していた。北海道で暮らしていた彼は(炭鉱が閉鎖され職を失い東京に出稼ぎに出たまま蒸発した)父の面影を求め自らも東京に来た。そしてある老人と出会い河原のバラックで父子のような共同生活を始める。この老人の正体は実はメイツ星から地球の気候を調べる為にやって来た宇宙人。彼は「金山」と名乗り工場街で働いている。金山は工場の汚れた空気で公害病を患ってしまい地球に飛来した際に埋めた宇宙船を掘り起こす事が出来なくなった。良は老人に代わってスコップで宇宙船を探していたのだ。宇宙人の恐怖にかられた街の人々が集団で河原に押しかけ良を殺そうとする。MATの郷秀樹が制止しようとするが「MATは宇宙人の味方をするのか!」と非難を浴びる。金山は耐えきれず「宇宙人は私だ」と名乗りを上げてしまい、警官から撃ち殺される。そこに怪獣ムルチが現れて工場街を破壊する。郷は(雲水に促されて)やむなくウルトラマンに変身して怪獣を倒す。しかし、そこに正義が実現された気配は微塵もない。
 現代では放映されない社会派作品です。脚本家・上原正三の自己イメージを投影した「良」と在日朝鮮人のメタファー「金山老人」。彼らを追い詰める「多数派」の暴力。この作品は「怪獣墓場」(シーボーズ)や「故郷は地球」(ジャミラ)と並ぶウルトラマンシリーズの最高傑作と言えます。正義とは何か?子供心に考えさせてくれたウルトラマン。有り難い時代でした。

学者

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